長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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他人

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 根付を返すと言われて、睦月会に向かうことにした。

 が、圭がお使いから帰って来て隼人がいなければ、締め出しを食らってしまうことになるので、一旦戻る。静子は落ち着いており、圭と会ったとしても、問題は起こりはすまい。

 しかし、すでに問題は勃発していた。事務所の前で圭と総一郎が小競り合いをしているのが確認できた。

 どうして宗一郎がいるのかは理解できないが、圭はもちろん、静子の心配までしなければならず、胃の辺りが痛みそうな状態である。

「ちょっとごめんよ」

 断りながら静子の表情を確認したが、穏やかに見えた。

「君、なにをしているのだ」

 一方、圭はいつにもまして目が釣り上がっている。

「どういうつもりだ? 彼には近づくなと言ったはずだが」

「書店で偶然見かけたから、声を掛けただけだ」

 最初は威勢が良かったものの、追いついた静子を見て、語尾は消えかけていた。

「ここは書店じゃない。追いかけて来たんだろう? さっさと離れて貰おうか」

 宗一郎にとっては、四面楚歌の状況、強気に出られる場面ではない。

 が、引くにも引けないのだろう、隼人を睨みはするが、静子にも視線が移り、眼が泳いでいる。

 隼人、圭と視線を動かした後、覚悟した表情で静子に向けた。

「静子、久しぶりだな」

 静子は表情を変えなかったが、宗一郎の態度は隼人の気に障った。

「垣崎さんと呼ぶべきではないのかな? 彼女はもう、君の許婚者じゃない。他人なんだよ。馴れ馴れしくするものじゃない」

 隼人は事務所の鍵を開けると、三人を招き入れた。このまま事務所の前で騒いでいようものなら、近所でどんな噂が立つか、考えただけでも面倒だ。

「君、いい加減にしたまえよ。もう、圭君とも、垣崎さんとも関わる必要はないのだと理解してはどうなのだ?」

 圭は静子を名前で理解したのか、ソファに座るよう促した後、自分も少し離れた場所に椅子を持っていき、他人事のような態度で眺めている。

「一度くらい話をさせてくれたっていいだろう」

 やや勢いは削がれているが、宗一郎も引かない。

「何を話したいのだ? 少なくとも圭君は、君に用はないらしい」

「あんたが勝手にそう判断してるんじゃないのか?」

「本人に聞いてみるかい?

 圭君、君は彼に話がある?」

「一切ありません」

 氷よりも冷たい声だった。

「そういうことだ」
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