長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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他人 二

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 「君はどうやら、俺が邪魔をしていると思いたいようだが、実のところはそうじゃない。

 俺は、会ったことはないが、彼をご両親から預かっている身なんだよ。問題に巻き込まれぬよう、気を付けなければならない。

 ただ、ね、彼が君にわずかでも心を残しているのなら、話をさせてあげるくらいの気は利くつもりだよ。

 友情と愛情は違う。まずそれを理解したまえ。そうすればおのずと、彼の気持ちは理解できるだろうからね」

 机の上に置いていた鍵を、再び手に取る。

「さて、今度は本当に帰ってもらおうか。俺達はこれから出かけるからね。もし、帰って来てもまだこの辺にいるようなら、警察に連絡を入れるよ」

「あ、あの、根付……」

「根付はもう、気にしなくていい。

 いいね、もう、帰りなさい」

 徹底的に宗一郎の言葉を拒絶する。それが今、一番必要なことだった。

 僅かであろうと、受け入れられた。と感じさせたなら、いつまでもまとわり付くに違いないのだから。

 宗一郎は自分の希望にはひたすら忠実だった。

 圭と静子に、行こう。と声を掛けると、事務所を出る。隼人が事務所を出る以上は、宗一郎が居座るわけにはいかないのだ。

 鍵を閉めると、三人は宗一郎を一切無視して、車に向かった。



 「ありがとうございます」

 後部座席から、静子の穏やかな声が聞こえた。

「なに?」

「私、彼に静子と呼ばれた時、腹が立ちましたの。長瀬さんのおかげで、気が済みました」

「それは良かった」

 宗一郎という男は、悪気はないのだろうが、現状を把握する能力に欠けている。

 相手が自分をどう思っているのか、相手がどう傷ついているのかを理解しようともせず、過去の延長で話を始めようとするのだから、周りの人間はたまったものではあるまい。

「ところで」

 と、圭が緊張を交えた声を出す。

「どちらに向かっておいでなのでしょうか?」

 問われて漸く、圭になんの説明もしていないことに気が付いた。
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