長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

文字の大きさ
98 / 184

寒天

しおりを挟む
 「ごめんごめん。

 垣崎さんのことはわかっているだろう? 彼女がお世話になっている所に向かっているんだ」

「麻上さんですわよね?

 申し訳ありません、根付は私が村越さんから盗みましたの。彼を困らせるつもりだったのですけれど」

「貴女は悪くありません。悪いのは村越さんです」

 二人の発する、村越さん。という言葉は、なんとなく似ていた。どこか突き放したようで、呆れたようで。同じような感情を持っているのだろうな。と、思わせられる。

 圭は、隼人を一瞥すると、口を閉じた。

 無駄だとわかっている。静子の元に根付があるはずがないのだから。それでも圭が何も言わないのは、遊女の殺害現場にあったことを静子に知らせまいとしたのだろう。

 隼人は胸を撫で下ろした。圭がうっかりと言わないかと内心ひやひやしていたのだ。こういう所が、圭は探偵助手として優れていた。

 静子の案内で、睦月会に到着した。如月会に比べると小さいが、個人宅にしては大きいと思われる敷地にそれはあった。

 高い木の塀に囲われて中は見えぬが、塀は遙か先まで延びている。

ほとんど人も通らぬ道に車を停めて、そこで待つことにした。男は入らない方が良いと、学習したからである。

 車の中で圭に詳しい話をしている最中に、静子が現れた。てっきり根付が見つからないと言いに来たのかと思いきや、中に入るよう促された。

「しかし、お邪魔じゃないのかな?」

「田中様が、外でお待たせするのは失礼だと」

 本音を言えば、中には入ってみたかったので、表向きは遠慮がちに、しかし、素直に礼を言って車を降りた。

 中に入ると、ずいぶんと古いが大きな建物の入り口が目の前にあった。

 廃墟一歩手前の建物は、旅館だったのではないかと思われる造りで、広い玄関の向こうには幾つもの引き戸が並んでいる。

 二人は玄関を入ってすぐの六畳ほどの部屋に入るよう促された。静子以外の人間にはひとりも会わないまま。

 人の気配が感じられなかった。下駄箱には草履や下駄、靴が整然と片付けられているのに、その主の気配は感じられない。

「随分と静かですね」

「こちらは生活の場所ですから。今は皆さん、勉強の為に出ておりますの。子供達は学校に行っておりますし。

 お座り下さい」

 そう言うと静子は、部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...