長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

文字の大きさ
107 / 152

東都日報 二

しおりを挟む
 「どうしたもこうしたも、大臣閣下の呆れた所業を今日、新聞で読んだものだから」

「あぁ、あの記事……母さんあんな新聞読んでるの?」

 例の三流新聞、東都日報である。

 圭がいない間に数日分と今日付けの新聞三紙に目を通したが、大臣の醜聞を報じたのは東都日報一紙だけであった。

 大臣の醜聞とは、地井文部大臣が最近起こしたと言われる、二歳の女の子への猥褻事件であった。

「読みますよ。お上品ぶった新聞より、東都日報の方が面白いですからね」

 正子らしいと言えば、らしい。

 地井と言えば、家族を大事にする男の代表とも言うべき人物で、婦人からの人気が特に高い。

 事件の詳細はこうである。

 四日前、地井は友人の経営する宿にお忍びで泊まっていたらしい。

 昔の宿屋で、鍵の無い、襖だけで出入りできる、大臣閣下が泊まるには警備上問題の多い宿ではあるが、学生時代から何度となく利用しており、いわゆる庶民の姿を見ることのできる場として、地井は年に三四度一人で泊まりに行っていたそうだ。

 その日、父親の還暦を祝う為に、六人家族が泊まっていた。

 夜八時頃、二歳の娘がいなくなり、探していたところ、大臣が自室に連れ込み、裸にしているのを見つけたのだとか。

「正子さん、あの記事は少々おかしいと、俺は思うけど」

 食堂の扉が開くと同時に、勇一郎の声がした。実家に行く。との置手紙を見て、来たのだろう。

「あら、中里さん、いらっしゃい。まぁ、山上さんまで」

 正子の声が一転、弾んだ。

「山上さん、私のお友達のお嬢さんとお見合いをする気はありません? とても可愛らしいお嬢さんなの」

 山上は困った顔をしたが、勇一郎が気を利かせたのかどうなのか、顔の前で手をヒラヒラと動かした。

「あら、もしかして、とうとう」

「あと二年、待ってやってくれないかな? 英和は秘密主義だから」

「心を動かすお嬢さんが出現したのね。残念だけど、諦めましょう」

「ここにも独身男がいるけど」

 山上が勇一郎を指さす。

「失礼だけど、お嬢さんの好みに合っているとは言いかねるわ」

 ごめんなさいね。と、正子は嫌味なく言うと、勇一郎は、納得とばかりに笑っている。

「そうそう、話の腰を折ってごめんなさいあの記事のどこがおかしいのかしら?」

 勝手に座り、珈琲を一口啜ると、肩を竦めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...