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過去 二
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「見えるかどうかではなく、するかしないかが重要」
「するわけがありません」
「未来においても?」
「はい」
本気で疑っているわけではあるまい。その証拠に、すぐに元の笑顔に戻った。
「今はどちらへ?」
問うて、答えるはずがないとはわかっている。しかし、問わずにはいられなかった。
「内緒。
叔母様ともお別れして、今は自由気ままな身ですわ」
「叔母様とも?」
「叔母様、あの男を信じたままなの。いい加減現実を見るよう申したのですけど、全然駄目」
「佐々木さんを見つけました。貴女が娼館へ送ったと証言した少女です」
百合子は、一つ小さく溜息を吐いた。
「彼女は貴女を、命の恩人だと言いました。どういうことでしょう」
「知らないわ」
突然、百合子の声に戻った。平静を失ったのだろう。
「貴女が娼館に送ったのは、私ひとりなのではありませんか? 貴方は、私が長瀬さんの許婚者だと信じて、あの場所に……」
「違います」
落ち着いたふりをした、声だと思った。
「それではまるで私が、男である長瀬様を……」
「では、遊郭で殺された少女の傍に、私の根付けを落とした覚えは?」
百合子はニヤリと笑った。
「覚えがございましてよ。
私の大切な、一番大切なお友達……これ以上苦しめたくなくて、楽にしてあげましたの。その序でに、あの根付けを。
ごめんあそばせ。
でも、本気で貴方に罪を押し付けようと思ったわけではございませんのよ。ただ、撹乱したかっただけ」
「つまり、貴女は今、睦月会にいらっしゃるのですね?」
「そうよ。でも、もう戻らない……。
今後、学生を探しても無駄ですわ。この恰好はもう、二度と致しませんから」
「これからは、以前のように少女の恰好を?」
百合子は視線だけを足元に向けて、考えるようなそぶりを見せた。
「どうかしら?
私は今までの私を捨てたいと思っておりますの。貴方なら、ご理解い頂けると思うのですけれど」
「私なら?」
「お幸せだったのでしょう、優しいご両親に愛されて。羨ましいわ。
でも、今だって決して、不幸ではございませんでしょう? やはり、周りの方達の愛情に包まれて、お幸せそうに見えますわ」
心底、羨んでいる声だった。圭はまた、無自覚に百合子を傷つけたのだと気付いた。
謝るべきか、気付かないふりをすべきか迷っている内に、百合子は学生帽を目深に被り直した。
「御機嫌よう」
大きな歩幅で歩き出す百合子を、圭は黙って見送った。
「するわけがありません」
「未来においても?」
「はい」
本気で疑っているわけではあるまい。その証拠に、すぐに元の笑顔に戻った。
「今はどちらへ?」
問うて、答えるはずがないとはわかっている。しかし、問わずにはいられなかった。
「内緒。
叔母様ともお別れして、今は自由気ままな身ですわ」
「叔母様とも?」
「叔母様、あの男を信じたままなの。いい加減現実を見るよう申したのですけど、全然駄目」
「佐々木さんを見つけました。貴女が娼館へ送ったと証言した少女です」
百合子は、一つ小さく溜息を吐いた。
「彼女は貴女を、命の恩人だと言いました。どういうことでしょう」
「知らないわ」
突然、百合子の声に戻った。平静を失ったのだろう。
「貴女が娼館に送ったのは、私ひとりなのではありませんか? 貴方は、私が長瀬さんの許婚者だと信じて、あの場所に……」
「違います」
落ち着いたふりをした、声だと思った。
「それではまるで私が、男である長瀬様を……」
「では、遊郭で殺された少女の傍に、私の根付けを落とした覚えは?」
百合子はニヤリと笑った。
「覚えがございましてよ。
私の大切な、一番大切なお友達……これ以上苦しめたくなくて、楽にしてあげましたの。その序でに、あの根付けを。
ごめんあそばせ。
でも、本気で貴方に罪を押し付けようと思ったわけではございませんのよ。ただ、撹乱したかっただけ」
「つまり、貴女は今、睦月会にいらっしゃるのですね?」
「そうよ。でも、もう戻らない……。
今後、学生を探しても無駄ですわ。この恰好はもう、二度と致しませんから」
「これからは、以前のように少女の恰好を?」
百合子は視線だけを足元に向けて、考えるようなそぶりを見せた。
「どうかしら?
私は今までの私を捨てたいと思っておりますの。貴方なら、ご理解い頂けると思うのですけれど」
「私なら?」
「お幸せだったのでしょう、優しいご両親に愛されて。羨ましいわ。
でも、今だって決して、不幸ではございませんでしょう? やはり、周りの方達の愛情に包まれて、お幸せそうに見えますわ」
心底、羨んでいる声だった。圭はまた、無自覚に百合子を傷つけたのだと気付いた。
謝るべきか、気付かないふりをすべきか迷っている内に、百合子は学生帽を目深に被り直した。
「御機嫌よう」
大きな歩幅で歩き出す百合子を、圭は黙って見送った。
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