長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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焦り

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 一応、電話で伺う向きを伝えてから、まずは如月会に向かった。

「垣崎さんが見つかって、父が大変喜んでおりました。ありがとうございます」

 遅ればせながら、礼を伝える。

「私のことまで伝えて下さるとは思いもよらず」

「お二人が信頼できる方だと感じたことと、お父様への信頼で、伝えさせて頂きました。誰でもというわけではございません」

 相変わらずの無表情で、一子は静かに言った。

「今日は、母のお使いなので、これを置いたらお暇します」

 平日の如月会。

 前は日曜日だったのだから、庭に人が溢れていたが、今日は殆ど見当たらない。しかし、人の気配は感じられる。

 奥の方から赤ん坊の泣き声や、母親らしい、優しい歌声も聞こえる。トタトタと、子供の足音も。これが本当なのだろうと思った。人が住んでいるからには、大きな音ではなくとも、生活音が聞こえるのが普通なのだ。

「ありがとうございます。本当に助かりますわ。

 まぁ、なんて美しいのでしょう。まるで金木犀の花のよう」

 一枚の着物を手に、一子の目は和らいだ。明るい橙の地色に、小さな丸い模様が散りばめられている。

「お洒落など、したこともない方もおります。

 貧しい家で生まれ育ち、やはり同じように貧しい家に嫁ぎ、継ぎを当てながら大事に大事に、一枚の着物を何年も着続けて。

 それはとても尊く、立派なことではございますけれど、女ですもの、明るく、美しい着物を身に着けたいと思う気持ちは、誰にでもございます。

 こうして、皆様のご厚意で集まった着物やお洋服を見る時、彼女達の目が輝くのが、私はとても嬉しい」

 いわゆるお古である。さすがに継ぎが当たっている物は無いが、くたびれた様子の着物も多い。どんなに皺を伸ばしても、お古はお古である。

 一子も、身ぎれいにしてはいるが、着物は決して新しくはない。

 パーティーで着物やドレスの自慢をする婦人達を見ても、いつの間にかなんとも思わなくなっていたが、庶民からしてみればなんと、贅沢なことか。

 同じ華族でも、百合子はいつも、母親の形見の着物を身に着けていた。しかし、手入れが行き届いており、質の良さは、隼人のような素人にすらわかるのだ。
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