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焦り 二
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あの、優しく慎ましやかな少女はどこへ行ってしまったのか……。
いや、あの頃の百合子は、幸せを奪われ、苦しみの殻に閉じ込められているに違いないのだ。どこかへ行ってしまったわけではない。
絹糸のようなしなやかな長い髪を、伏し目がちの甘い美貌を、打ち捨てた凛々しいモダンガール。それもまた、百合子ではあるのだが……。隼人にはまだ、馴染みのない、よそよそしい相手であった。
「図々しいとは思うのですが、伺いたいことがあります。少女を探しているのです。
いい年をした男が、どんな理由で少女を探しているのか。怪しまれるでしょうね。しかし、決して、疚しい感情を持ってのことではありません。
ある、小さな事件を追っています。犯人と思われる人を、被害者だと思われる少女が、犯人ではないと教えてくれました。私はその人の無実を証明したい」
一子は無表情を保ったまま、隼人と勇一郎を交互に見た後、数秒目を閉じた。
「なんというお名前でしょう」
「八田百合子と、海部和香子」
「私が申し上げられるのは一つだけ。ここにはおりません」
隼人は笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
それだけで良かった。一子が隼人たちを信用してくれたように、隼人も一子を信用していた。嘘は吐くまい。いるならば、答えないだろう。
答えがすぐに出てくるのが理想だが、なかなかそううまくはいかない。選択肢が一つでも減れば、自ずと答えに近づく。
一子の心遣いに感謝して、隼人は如月会を辞した。
「お前、焦ってるのか?」
助手席から、らしからぬ心配気な声。
「そうかも知れない。本来なら、今日は聞いてはいけないのだが……」
母親からとはいえ、寄付の品物を持って来たからには、恩を着せて答えを導きだそうとしていると思われても仕方がない。
それでも、隼人は聞かずにはいられなかった。
「圭君に危害が加えられそうな状況に、ゾッとしていてね。
俺に巻き込まれているのなら、離れれば済むことだが、彼自身が狙われているのなら、守る方法を考えないと。
頭は良いが、まだ子供だ。その上少々無鉄砲な部分もある」
「確かにな。好奇心が強いってか、子供らしいってか。
お前の傍にいる圭ちゃんに嫉妬して、八田百合子が狙っているのだと考えられなくもないが、彼女はそんなことをするようには思えない。
なんて言えば良いのかな、卑怯な真似をするような子には思えないんだ。
学生は、お前も考えているんだろう? 八田百合子の変装だと」
隼人は唇を噛み締めた。
考えを言葉にして誰かに聞かせてしまうと、今まで、想像に過ぎなかったものが、立ちどころに真実になってしまいそうで、恐ろしかった。
いや、あの頃の百合子は、幸せを奪われ、苦しみの殻に閉じ込められているに違いないのだ。どこかへ行ってしまったわけではない。
絹糸のようなしなやかな長い髪を、伏し目がちの甘い美貌を、打ち捨てた凛々しいモダンガール。それもまた、百合子ではあるのだが……。隼人にはまだ、馴染みのない、よそよそしい相手であった。
「図々しいとは思うのですが、伺いたいことがあります。少女を探しているのです。
いい年をした男が、どんな理由で少女を探しているのか。怪しまれるでしょうね。しかし、決して、疚しい感情を持ってのことではありません。
ある、小さな事件を追っています。犯人と思われる人を、被害者だと思われる少女が、犯人ではないと教えてくれました。私はその人の無実を証明したい」
一子は無表情を保ったまま、隼人と勇一郎を交互に見た後、数秒目を閉じた。
「なんというお名前でしょう」
「八田百合子と、海部和香子」
「私が申し上げられるのは一つだけ。ここにはおりません」
隼人は笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
それだけで良かった。一子が隼人たちを信用してくれたように、隼人も一子を信用していた。嘘は吐くまい。いるならば、答えないだろう。
答えがすぐに出てくるのが理想だが、なかなかそううまくはいかない。選択肢が一つでも減れば、自ずと答えに近づく。
一子の心遣いに感謝して、隼人は如月会を辞した。
「お前、焦ってるのか?」
助手席から、らしからぬ心配気な声。
「そうかも知れない。本来なら、今日は聞いてはいけないのだが……」
母親からとはいえ、寄付の品物を持って来たからには、恩を着せて答えを導きだそうとしていると思われても仕方がない。
それでも、隼人は聞かずにはいられなかった。
「圭君に危害が加えられそうな状況に、ゾッとしていてね。
俺に巻き込まれているのなら、離れれば済むことだが、彼自身が狙われているのなら、守る方法を考えないと。
頭は良いが、まだ子供だ。その上少々無鉄砲な部分もある」
「確かにな。好奇心が強いってか、子供らしいってか。
お前の傍にいる圭ちゃんに嫉妬して、八田百合子が狙っているのだと考えられなくもないが、彼女はそんなことをするようには思えない。
なんて言えば良いのかな、卑怯な真似をするような子には思えないんだ。
学生は、お前も考えているんだろう? 八田百合子の変装だと」
隼人は唇を噛み締めた。
考えを言葉にして誰かに聞かせてしまうと、今まで、想像に過ぎなかったものが、立ちどころに真実になってしまいそうで、恐ろしかった。
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