長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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二少女

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 翌日、勇一郎と山上は各自仕事に、隼人は圭と事務所にいた。

 結婚披露パーティーは明日。

 睦月会の暴挙をどう阻止するべきか、考えるべきことは多くあるのだが、まずは、海部和香子の件を優先することにした。

 静子はすぐに手紙を渡してくれるだろうが、和香子が行動するかどうかはわかりかねる。

 どうなるかははっきりとわからないまでも、静子が知っているのは事務所だけなので、待つしかない。

 新聞を読んでいた圭が、突然、昨日、逓信大臣の……と言いながら、口を手で覆った。

「すみません、誰にも言ってはいけないと中里さんから」

「大丈夫だよ、俺も、勇一から聞いている。逓信大臣の秘密の件だろう?

 まぁ、新聞に堂々と書かれても困るが、性犯罪者にされるよりはまだましってもんだと……」

「そうなのですか?」

 圭の表情は浮かない。

 夕べ、勇一郎となにかあったらしい。勇一郎はなにやら妙な表情で言葉少なだったし、圭はずっと、思い悩んでいる様子だった。

「そうじゃない?」

「正直に申しますと、どうやら 私は勘違いしているらしく、中里さんが頭を抱えたまま、口を利いてくれなくなってしまいまして」

 その辺りの話を聞いて理解できた。

 最近、女買いだ、遊郭だ、娼館だとその手の話を普通にしてきたから、圭も理解していると思い込んでいたが、どうやら間違いだったらしい。

 一応、娼館がどういう場所かはうっすらわかってはいるらしいが、裸で抱き合う程度の知識しかないのが本当の処らしい。

 箱入りのお坊ちゃまと唸りたくなる気持ちもわかるが、妙な知識を植え付けるなと、勇一郎を怒鳴りつけたくなるのも本音であった。

 自分の勘違いを、隼人が訂正してくれると思っているのだろう、圭の表情は明らかに期待に満ちている。

 貧乏くじを引かされた。と思った。考える振りをして、周りを見渡す。何か、興味を逸らす道具はないだろうかと考えてはみるものの、隼人もそぞろな気持ちのせいか、上手い考えが浮かばない。

 いつまでも誤魔化してもいられず、かといって覚悟も決まらず困り果てた隼人の目に、救いの神が映った。

「垣崎さんだ」

 圭が視線を玄関扉に移した。同行者がいるが、一瞬、少年だと思った。

 明治で言うところのざんぎり頭といった風で、まだ初夏にも関わらず顔も手もしっかりと日に焼けている。硝子扉を圭が開き、どうぞ。と、柔らかな声で招き入れた。

「突然申し訳ありません。和香子様を案内して参りましたの。早い方が良いかしらと思いまして」

 二人の少女は、輝く瞳を隼人に向けた。

「わざわざありがとうございます。どうぞ」

 案内は圭に任せて、お茶を淹れる。

 お茶と言っても家で作って水筒に入れてきた、すっかり冷え切った物ではあるが、無いよりはましだろう。

  和香子は美しいが、良家のお嬢様には見えなかった。日焼けはもちろんだが、動きも大きく、良く言えば少年めいている。悪く言えばガサツな感じがした。

「百合子様が私を娼館に送ったとはどういう意味でしょう」

 挨拶もそこそこに、和香子は不安に満ちた表情で隼人に向かう。

「手紙に書いた通りで、百合子さんが認めたのです。海部さん、貴女と他に二人の少女を娼館に送ったと。違うのですね?」

 和香子ははっきりと首を縦に動かした。

「百合子さんとのことを、詳しく教えて欲しい」

 和香子の目には、強い意志が見えた。

「百合子様が声を掛けて下さったのです。五月の半ばでした」
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