長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

文字の大きさ
182 / 184

愚痴 二

しおりを挟む
 「周りは男ばかりだから、多いのだよ、婦人の話は。

 それが妻や娘の自慢なら気持ち良く聞けようが、実際は反対で、気が利かないだの頭が悪いだの、そう言えば男としての恰好がつくとでも思っているのか、耳障りで仕方ない。

 挙句の果てには、どこそこの遊郭の誰が良いだの、妾を囲っただの言いたい放題だ。

 まぁ、そういう私も、家のことは妻に任せきりで、子供も暇のある時に可愛がるだけで、躾や教育には殆ど関わっていない。偉そうに言える立場ではないだろうがね。

 しかし、妻に、ごめん、ありがとうを言うことが、男の沽券に関わるとばかりの部下の態度には、呆れを通り越して怒りを感じるよ」

 どうやら愚痴を言いたいらしいと理解し、ようやくほっとした。立場的に簡単に愚痴を言える環境にはないのだろう。

「父が申しますには、結婚と言うのはしっかり者の女房の尻に敷かれているくらいが一番幸せなのだとか」

「それは的を射た言葉だ。御父上とは気が合いそうだ」

 元帥は大きく伸びをすると、木々の心地よい香りを吸い込むかのように深呼吸した。

「あぁ、気持ち良いな。たまにはこんなふうにのんびりする時間も必要だな」

隼人には聞きたいことがあった。今は機嫌が良いようだから、良い機会かもしれない。

「あの、百合子さんに制服を奪われた、海軍兵学校の生徒は……」

 途端に元帥の顔が険しくなった。

「あの日の九時過ぎに、ようやく自力で紐を解いたらしく、無様な姿で現れたよ」

 まさかとは思ったが、本気で助けに行かずにいたようだ。

「孫のひとりなのだが、頭は良い。運動神経も良い。そのせいか他の人間を見下す傾向がある。

 軍人は一匹狼ではいけない。広く意見を聞き、最終決定をすれば、後は一人責任を負う。

 そう、責任を負うのは一人だが、それまではできる限り多くの人間と関わり合う必要がある。それをあ奴は蔑ろにしているのだ。

 正直に言えば、私は感謝している。今までどんなに言おうとも聞く耳持たなかった奴が、私の叱咤に顔も上げられずにじっと黙って聞いていたよ。

 何しろ、一人で行動していたがために狙われたのだからね。これから奴は変わるだろう。

 さ、戻ろうか。済まない、愚痴の聞き役にさせてしまって」

「いいえ、私で良ければいつでも」

 地位が高くなればなるほど、迂闊なことを話せなくなるものだ。元帥は隼人を信用してくれたのだろう。

 明日の朝、富山一家と共に百合子達も引っ越す。当分、会うことはないだろう。

 これからの生活で更に魅力的になるであろう百合子。次に会う時には、幸せな恋をしていて欲しいと、心から思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...