長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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珈琲 四

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 更に三日後も同じような事があり、そして四日後、どうしても外せない用があるからと、義礼は朝屋敷を出、夕方戻って来ると、食事も取らずに書斎に籠もり、翌日、目を真っ赤にしていたという。

 有朋の証言によると、義礼には私的な友人は無いに等しく、休日ともなれば書斎で本を読むのが常で、出掛けるにしても、どこへ行くかは必ず家人に告げていた。この処の義礼の外出は極めて不自然であるらしい。

 手帳に視線を向けたまま皿に手を伸ばすと、頭上から笑い声が降り掛かって来た。

「お皿は空ですよ」

 有朋は苦笑しながら、向かいの席に座る。ペラゴロ達は相変わらず、熱心にオペラ談義に花を咲かせていた。

「美味しそうですね。僕も珈琲を」

 注文を取りに来た店主に、隼人ももう一杯珈琲を頼む。それらが揃うまでは、当たり障りの無い話でお茶を濁した。

「わざわざこちらにいらしたのは、密かに聞きたい事があるのでしょう?」

 珈琲茶碗を手に、有朋が水を向ける。

「義礼氏はどこの大学を出ているのか、知っているか?」

「僕達と同じですよ」

「同じ?じゃあ、T大なのか?」

 その通りとばかりに、頷いた。

 相馬満は、K大学を卒業していると聞いた。

 大学を出た者はあの辺りでは殆ど居らず、詳しくないのだから間違って教えていないとも限らないが、隼人にしてみれば、嘘がまた一つ増えたとしか思えない。

 眉間に皺を寄せる隼人を気にする様子もなく、有朋は珈琲を楽しんでいる。呑気な表情に、少なからぬ苛立ちが湧き上がった。

「君は、本当は思い出しているのだろう?」

 有朋は小さく笑った。

「何を?」

「叔母さんも弟も死んでいる事を」

 有朋は、持ち上げていた珈琲茶碗に口を付けず、呆然とした表情を見せた。傾いた珈琲茶碗から、珈琲が零れる。

「君、何をしているのだ! 火傷をするだろう」

 隼人の言葉に反応して、珈琲茶碗は卓子テーブルに戻したが、手巾ハンケチを取り出そうともしない。

 隼人は、ポッケットから手巾を取り出すと、珈琲で汚れたズボンを拭くように指示した。芝居ではない。この件に関して初めて、有朋は本当の感情を示したのだと思った。
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