51 / 126
不義
しおりを挟む
「弟?」
「あぁ。本当に憶えていないのか?
実家が火事に遭ったことは?」
「それは憶えています」
「憶えている?」
有朋は軽く目を閉じた。涙を堪えているようだった。
「君の話していることは、どこまでが本当なのだ?
君は今、憶えていると言った。しかし今までは、思い出したとしか言わなかった。君は今まで、子供の頃の事を憶えていながら、記憶を失ったふりをしていたのだな」
「でも、全てを憶えているわけではありません」
「そのようだね」
「叔母は、子供と共に生きていると思っていたのです」
「本気で、従兄弟だと思っていたのか?
君の父親は、相馬満なのか? それとも、高林義礼?」
さぁ。と、やや投げやりに答えた。本人にもわからないのだろう。もしかしたら、義礼にも。
「叔母を探そうと考えたのは、社長を困らせようと思っただけです。最終的にどうしようかとは、考えてはいませんでした。ただ、僕が叔母を探し始めたら、社長はどんなに驚くだろう。と。
実を申しますと、偶然貴方の事務所を見つけて、考えついたのです」
「つまり俺が、こんなことを始めなければ、考えつかなかった悪戯だと?」
珈琲の染みの付いた手巾を、迷うような手付きで返してきた。
「そうだと言えば、貴方に責任を押し付けているように聞こえますね」
有朋は自嘲気味に笑うと、あの頃……と遠い目をした。
「社長とは、月に二度は会っていました。いつも、母と叔母と僕の四人で。
でも直ぐに、僕は叔母と一緒に散歩に出かけるのです。そうして帰り際、三人ずっと一緒だったと、言い含められるのです。小さなお菓子を握らされて。
でも、僕はお菓子に釣られたのではありません。もし、母が父以外の男とどこかへ行ったと口にしたなら、とんでもないことになると、幼いながら気付いていたのです。望む、望まぬに関わりなく、僕は共犯者にされていた。
父は、養子の遠慮もあったのでしょうが、母の我が儘をいつも笑顔で聞いてあげるような人でした。とても優しかった。
変ですね、そんなことは憶えているのに、弟のことは何一つ憶えていない」
「弟は、不義の子ではないかと噂されていたそうだよ。近所で噂になるくらいなら、相馬満も気付いていただろう。君の弟に対しては冷たい態度をとっていたのかもしれない。
優しい父親を憶えていたい君は、弟に対する父親の態度を忘れる必要があったのかも」
「そうなのでしょうか?」
「あぁ。本当に憶えていないのか?
実家が火事に遭ったことは?」
「それは憶えています」
「憶えている?」
有朋は軽く目を閉じた。涙を堪えているようだった。
「君の話していることは、どこまでが本当なのだ?
君は今、憶えていると言った。しかし今までは、思い出したとしか言わなかった。君は今まで、子供の頃の事を憶えていながら、記憶を失ったふりをしていたのだな」
「でも、全てを憶えているわけではありません」
「そのようだね」
「叔母は、子供と共に生きていると思っていたのです」
「本気で、従兄弟だと思っていたのか?
君の父親は、相馬満なのか? それとも、高林義礼?」
さぁ。と、やや投げやりに答えた。本人にもわからないのだろう。もしかしたら、義礼にも。
「叔母を探そうと考えたのは、社長を困らせようと思っただけです。最終的にどうしようかとは、考えてはいませんでした。ただ、僕が叔母を探し始めたら、社長はどんなに驚くだろう。と。
実を申しますと、偶然貴方の事務所を見つけて、考えついたのです」
「つまり俺が、こんなことを始めなければ、考えつかなかった悪戯だと?」
珈琲の染みの付いた手巾を、迷うような手付きで返してきた。
「そうだと言えば、貴方に責任を押し付けているように聞こえますね」
有朋は自嘲気味に笑うと、あの頃……と遠い目をした。
「社長とは、月に二度は会っていました。いつも、母と叔母と僕の四人で。
でも直ぐに、僕は叔母と一緒に散歩に出かけるのです。そうして帰り際、三人ずっと一緒だったと、言い含められるのです。小さなお菓子を握らされて。
でも、僕はお菓子に釣られたのではありません。もし、母が父以外の男とどこかへ行ったと口にしたなら、とんでもないことになると、幼いながら気付いていたのです。望む、望まぬに関わりなく、僕は共犯者にされていた。
父は、養子の遠慮もあったのでしょうが、母の我が儘をいつも笑顔で聞いてあげるような人でした。とても優しかった。
変ですね、そんなことは憶えているのに、弟のことは何一つ憶えていない」
「弟は、不義の子ではないかと噂されていたそうだよ。近所で噂になるくらいなら、相馬満も気付いていただろう。君の弟に対しては冷たい態度をとっていたのかもしれない。
優しい父親を憶えていたい君は、弟に対する父親の態度を忘れる必要があったのかも」
「そうなのでしょうか?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる