長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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不義

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 「弟?」

「あぁ。本当に憶えていないのか?

 実家が火事に遭ったことは?」

「それは憶えています」

「憶えている?」

 有朋は軽く目を閉じた。涙を堪えているようだった。

「君の話していることは、どこまでが本当なのだ?

 君は今、憶えていると言った。しかし今までは、思い出したとしか言わなかった。君は今まで、子供の頃の事を憶えていながら、記憶を失ったふりをしていたのだな」

「でも、全てを憶えているわけではありません」

「そのようだね」

「叔母は、子供と共に生きていると思っていたのです」

「本気で、従兄弟だと思っていたのか?

 君の父親は、相馬満なのか? それとも、高林義礼?」

 さぁ。と、やや投げやりに答えた。本人にもわからないのだろう。もしかしたら、義礼にも。

「叔母を探そうと考えたのは、社長を困らせようと思っただけです。最終的にどうしようかとは、考えてはいませんでした。ただ、僕が叔母を探し始めたら、社長はどんなに驚くだろう。と。

 実を申しますと、偶然貴方の事務所を見つけて、考えついたのです」

「つまり俺が、こんなことを始めなければ、考えつかなかった悪戯だと?」

 珈琲の染みの付いた手巾を、迷うような手付きで返してきた。

「そうだと言えば、貴方に責任を押し付けているように聞こえますね」

 有朋は自嘲気味に笑うと、あの頃……と遠い目をした。

「社長とは、月に二度は会っていました。いつも、母と叔母と僕の四人で。

 でも直ぐに、僕は叔母と一緒に散歩に出かけるのです。そうして帰り際、三人ずっと一緒だったと、言い含められるのです。小さなお菓子を握らされて。

 でも、僕はお菓子に釣られたのではありません。もし、母が父以外の男とどこかへ行ったと口にしたなら、とんでもないことになると、幼いながら気付いていたのです。望む、望まぬに関わりなく、僕は共犯者にされていた。

 父は、養子の遠慮もあったのでしょうが、母の我が儘をいつも笑顔で聞いてあげるような人でした。とても優しかった。

 変ですね、そんなことは憶えているのに、弟のことは何一つ憶えていない」

「弟は、不義の子ではないかと噂されていたそうだよ。近所で噂になるくらいなら、相馬満も気付いていただろう。君の弟に対しては冷たい態度をとっていたのかもしれない。

 優しい父親を憶えていたい君は、弟に対する父親の態度を忘れる必要があったのかも」

「そうなのでしょうか?」
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