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不義 二
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「あの日、父と母が言い争っていました。僕は怖くて、部屋の隅で震えていたのだと思います。
どんな争いだったのかは覚えていませんが、一旦部屋を出た父が戻って来た途端に、母にぶつかって行きました。母が悲鳴を上げても、父は殴りつけるのをやめませんでした。
僕の記憶はそこで途切れています」
「殴っていたのではなく、包丁で刺したのだろう。発見された遺体の内、相馬満の胸に、包丁が刺さっていたらしい。因みに、母親と叔母も、刺殺だったそうだ。
君の記憶は、確かに不完全だね」
有朋の記憶では、叔母と弟の存在が抜けている。
母親が何度も殴られたのではなく、母親と叔母が刺されたのを見たのだろう。
その後、どうなったのか。息子二人をどうしたのか。首を絞めるなどしたのかもしれない。あるいは、手には掛けぬが、放置したのかもしれない。
赤ん坊だった弟は火に巻き込まれ、五歳になっていた有朋は、逃げ出した後、気を失ったのではあるまいか。そう考えれば、辻褄は合う。
しかし、この推測は、ご隠居が見た二人の男を無視しなければならない。
向かい合って黙り込み、珈琲を少しずつ飲みながら、賑やかな声を聞いていた。悩みの無さそうな声が、今は気持ち良かった。
「つまり君は、家族を壊した原因である義礼氏に、言い方は良くないと思うが、復讐したいと思ったのだな?」
「両親の言い争いの内容を理解できずとも、原因は分かっていました。あの男以外にありはしない。と。
意識を取り戻したのは、高林家の一室でした。両親が死んだとは聞かされませんでした。遠い所にお仕事で行ったから、暫くはここにいるんだよ。と言われて、僕は信じた振りをしました。
社長は僕に聞きました。何か憶えているかい? と。その時の目が怖くて、僕は、何も憶えていないと言いました。その問いは、十五なるまで何度も繰り返されたのです。
怖くて、憶えていると言ってはいけないと、ずっと心の中に仕舞っていました。そうすることでしか、僕は、僕を守れなかったのです」
もし、義礼が不義の相手だとすれば、間接的に有朋の家族を殺したとも言える。有朋には事件を記憶していては欲しくないだろう。
しかし、養子として迎えようとしている有朋が、過去を思い出した。義礼にとって強い衝撃であったに違いない。
どんな争いだったのかは覚えていませんが、一旦部屋を出た父が戻って来た途端に、母にぶつかって行きました。母が悲鳴を上げても、父は殴りつけるのをやめませんでした。
僕の記憶はそこで途切れています」
「殴っていたのではなく、包丁で刺したのだろう。発見された遺体の内、相馬満の胸に、包丁が刺さっていたらしい。因みに、母親と叔母も、刺殺だったそうだ。
君の記憶は、確かに不完全だね」
有朋の記憶では、叔母と弟の存在が抜けている。
母親が何度も殴られたのではなく、母親と叔母が刺されたのを見たのだろう。
その後、どうなったのか。息子二人をどうしたのか。首を絞めるなどしたのかもしれない。あるいは、手には掛けぬが、放置したのかもしれない。
赤ん坊だった弟は火に巻き込まれ、五歳になっていた有朋は、逃げ出した後、気を失ったのではあるまいか。そう考えれば、辻褄は合う。
しかし、この推測は、ご隠居が見た二人の男を無視しなければならない。
向かい合って黙り込み、珈琲を少しずつ飲みながら、賑やかな声を聞いていた。悩みの無さそうな声が、今は気持ち良かった。
「つまり君は、家族を壊した原因である義礼氏に、言い方は良くないと思うが、復讐したいと思ったのだな?」
「両親の言い争いの内容を理解できずとも、原因は分かっていました。あの男以外にありはしない。と。
意識を取り戻したのは、高林家の一室でした。両親が死んだとは聞かされませんでした。遠い所にお仕事で行ったから、暫くはここにいるんだよ。と言われて、僕は信じた振りをしました。
社長は僕に聞きました。何か憶えているかい? と。その時の目が怖くて、僕は、何も憶えていないと言いました。その問いは、十五なるまで何度も繰り返されたのです。
怖くて、憶えていると言ってはいけないと、ずっと心の中に仕舞っていました。そうすることでしか、僕は、僕を守れなかったのです」
もし、義礼が不義の相手だとすれば、間接的に有朋の家族を殺したとも言える。有朋には事件を記憶していては欲しくないだろう。
しかし、養子として迎えようとしている有朋が、過去を思い出した。義礼にとって強い衝撃であったに違いない。
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