長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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手首 二

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 「足手まといになるので、置いていかれました」

 敏は少し、困った表情になった。

「ごめんなさい、冗談です。先日、寝不足で調子を悪くしてから、長瀬さんが神経質になってしまって。

 昨日もお邪魔していたのですよ。敏さんとは会えませんでしたけど」

「昨日は、私も具合が良くなくて、ずっと臥せっていましたから。

 いえ、お嬢様がお出掛けでしたので、気が抜けたみたいです」

 圭の表情が変わったのに気がついたのだろう、慌てて、今はもう、すっかり元気ですけど。と、付け足した。相変わらずの、真白い顔色のままで。

「私には、大丈夫だとは思えません」

「肌の色が良くないので、そう見えるのですね。でも、これは生まれつきですから」

「そんなに不健康な肌の色なんてあるものですか。この家のお勤めが合わないのではありませんか?

 敏さんがお望みなら、別の働き場所を紹介します。ご自分を一番に考えて、本当の気持ちを仰って下さい。他のお屋敷に移りたいと思いませんか?」

 敏は笑顔を収め、意志の強さを目で表した。

「私はここを辞めません。家族を養わなければならないのですから」

「働き口なら、紹介します」

「駄目なの! ここでなければ駄目なの! 私は約束したのよ。だから、絶対に駄目なの」

 何故か。と、問いたかったが、敏の目は、それを許さなかった。

「心配して下さって、ありがとうございます」

 どんな約束があるのか、無関係の圭には、踏み込む権利はない。

「ひとつだけ、お願いしてもいいでしょうか?

 もし私が死んだら、映子お嬢様に、お約束をお願いします。と、私が言っていたと伝えて頂けませんか?」

「死んだら?」

 物騒な言葉を口にしたとは思えないほど、敏は落ち着いた様子だった。

 蝋のように、白いばかりではなく、体温すら感じさせない無機質に見える肌の色をしていても、表情は穏やかで、優しい。

「いえ、体が悪いわけではないのですよ。
万が一って事です。多分、伝えて頂く必要は無いでしょうけど」

 地味な着物の裾から少しだけ覗いた、手首の包帯がやけに白く、痛々しく見える。

「怪我をしたのですか?」

 圭が、自分の左手の手首を指差しながら、敏の左手に視線を向けると、敏は、すっと、左手を背後に隠した。

「昨日、かやで切りました。大したことはないとですが、血が出たから吃驚して」
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