長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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手首

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 翌日も、圭は彬子から、熱烈な歓迎を受けた。

 圭自身は、彬子に対して悪い印象は持っていない。昨夜、彬子が有朋に言い寄っている。と聞いても、軽々しい女ではないとの考えは、変わらない。

 二階の、有朋の部屋の隣にある書庫に籠もり、本を漁りつつ、喉が乾いたと理由をつけては台所に向かう。

 女の園である台所に行くのは、最初こそ抵抗があったが、女中頭の喜代はどこかばあやに似ており、会うのが楽しみになっていた。  
 
 台所では、女中達が嬉しそうに、なにやら見せ合っていた。

「どうしたのですか? 楽しそうですね」

 声を掛けると春が、白い半衿を見せてくれた。紅葉の刺繍が可愛らしい。

「彬子奥様が下さったの。素敵でしょう」

 見て、見て。と、次から次へと女中が半衿を差し出す。桔梗やら薄やら、秋らしい植物が、小さく刺されていた。

「綺麗ですね」

「奥様、刺繍がお上手なの。

 季節ごとに手巾や、半衿に刺繍をなさって、いつもありがとう。って、一人一人に手渡しで下さるのよ」

 贅沢のできない、年頃の娘への配慮もあるのだろう。

 いや、喜代の手もあったから、やはり、感謝の気持ちを伝えたいのだろう。老いも若きも心底嬉しそうだ。

「奥様は優しい方です。お金持ちとは思えないくらい質素ですし。お庭の花もほとんど、奥様が育ててらっしゃるのですよ」

 水と共に、喜びの言葉を受け取る。

「本当に奥様は、優しい方」

 喜代の言葉に、周りの女中達も頷いた。

 埃の匂いのする書庫に戻り、裏庭を見渡す。誰もいない。

 本を読みながら、横目で人が通るのを見逃すまいと構えていると、運良く、敏が近付いて来るのが見えた。慌てて胸のポッケットから手巾を取り出すと、窓から落とす。

「すみません」

 手巾を拾い上げた敏に向かって呼びかける。

「直ぐに取りに参りますので、持っていて頂けますか?」

 敏は感じ良く笑うと、慌てないで。と、手巾を振りながら答えてくれた。

 急ぎつつも足音を忍ばせて階段を下りると、庭に飛び出す。洗濯物が風に揺らめいているのが、爽やかである。

「今日は、探偵さんは一緒じゃないのですか?」

 深い意味はなさそうだった。挨拶のようなものか。
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