長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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手首 四

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 「私はまだお酒を嗜めませんでしたから、甘い飲み物ばかり頂いておりましたの。

 寒い日でした。給仕の者がショコラを持って来ましたので、頂こうと思いましたら、先代様も手を伸ばされました。殿方があんなに甘い物を召し上がるなんて、珍しいですわよね。

 お酒が苦手なので、冬は専らショコラを頂いているのです。と、仰っいました。子供のようでしょう? と、夫人が笑ってらしたのを、憶えていますわ。とても素敵なご夫妻でした」

 昨日の話によると、当時彬子は十八だったそうだから、圭は指を吸いながら家で留守番をしていた頃だろう。乙女の瞳で、父親の話をされても、はぁ。としか答えようがないのが、今の圭の立場だった。

 つまり彬子は、圭という、初恋の人の写真を眺めながら、思い出に浸っているのである。害がないから、付き合って上げてもいいか。とも思うが、照れくさく、疲れるのが本音である。

「ご両親様は、自由恋愛でいらしたのかしら?」

「親同士の決めた許嫁だったそうですが、幼馴染でもあったそうです」

「それでは、どちらとも言えるのですね。

 確かお母様は十六歳で、十八歳の先代様に嫁がれたのですわ。

 圭一様は何方か、思う方はおいでなのかしら?」

 圭は気の無い態度で、首を横に振った。

「女性にはあまり、興味が無いようですわね」

「元々、人間が好きではありません」

 人当たりの良かった父親とは違うのだ。と、印象付けたい気持ちもあり、本音でもあったのだが、彬子の答えは、圭を戸惑わせた。

「長瀬様とは、あんなに親しくなさっておいでなのに?端から見れば、まるで、ご兄弟のように見えますわよ。

 長瀬様はちょっとお節介焼きのようですけど、圭一様はそれが嬉しいのではございませんの?」

 図星を突かれて、そっと視線を反らした。

 人に興味が無いと言いながら、甘えたい気持ちが存在する。それを、無意識らしいが、隼人が受け止めてくれるのが心地良い。そんな感情を見抜かれた気がしたのだ。

「圭一様は、相馬と似ておりますのね。あの人も、大事ならばとことん大事にしますけれど、それ以外の人間はどうでも良い。そのくせ、期待させる様子も見せる。

 期待を持たせないだけ、圭一様の方が優しいですわね」

『貴女が独り身ならば』と言った件だろうか。
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