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手首 五
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有朋は、彬子が義礼を殺そうとしたと疑っているらしいが、違う。と。圭は思った。彬子は疲れている。有朋への感情に。
「幸せですか?」
彬子は、少し考えた。
「幸せと言えば幸せ。そうではないと言えば、そうではないでしょうね。
飢えずにいるのは高林のお陰だけど、あの人は私を幸せな気持ちにはしてくれません。もし私が夫以外の方に心を奪われたとしても、仕方ないと思いませんか?」
「好きな方がおいでなのですか?」
「えぇ」
彬子の顔から、笑みが薄らいだ。
「私はそう思っているのですけれど、なぜかしら、最近はその方といるより、圭一様といる時の方が楽しいのです」
彬子は、着物の袖を玩びながら、つと俯いた。
「本気で愛していると思っていたのですけれど、本当は私、絵物語の様な恋を夢見ているだけなのかもしれませんわね」
まるきり、他人の呟きであった。
「圭一様は? お幸せ?」
二つ目の貯古齢糖が、口の中で溶けた。
「幸せと言うには不幸ですし、不幸と言うには幸せなのだと思います」
生意気な答えに、彬子は顔を上げて微笑んだ。
「笑えるのはいい事です。幸せになるには、笑顔が必要ですものね。
ご覧になって。菊が綺麗に咲いておりますわ」
白や黄色、紫の花が、空に向かって花弁を伸ばし、地上の花火を象る。
「美しいですね」
「花を愛でることのできる人は、きっと幸せになれますわ。保証します」
その言葉は、彬子自身が自分に言い聞かせている、呪文なのだと思った。
義礼が少しでも、彬子に愛情を示したならば、恋物語に憧れる必要はなかっただろう。しかし、夫以外の男に恋心を抱いたとしても、姦通の罪を犯すほど、愚かな女であるまい。
つまるところ、彬子の恋とは、活動写真の中で魅力を振りまく、役者を愛するようなものなのだろう。相手が靡いてくると、彬子は突然現実を思い出す。恋はすっかり、魅力を失ってしまうのだ。
結局、彬子を現実に引き戻したのは、『貴女が独り身ならば』と言った有朋自身の言葉なのだろう。
昨日、隼人から聞いた、有朋の告白を思い出しても、彬子は犯人にあらず。との考えは変わらなかった。
今日、彬子と話しをして、その考えは更に強いものとなった。
「幸せですか?」
彬子は、少し考えた。
「幸せと言えば幸せ。そうではないと言えば、そうではないでしょうね。
飢えずにいるのは高林のお陰だけど、あの人は私を幸せな気持ちにはしてくれません。もし私が夫以外の方に心を奪われたとしても、仕方ないと思いませんか?」
「好きな方がおいでなのですか?」
「えぇ」
彬子の顔から、笑みが薄らいだ。
「私はそう思っているのですけれど、なぜかしら、最近はその方といるより、圭一様といる時の方が楽しいのです」
彬子は、着物の袖を玩びながら、つと俯いた。
「本気で愛していると思っていたのですけれど、本当は私、絵物語の様な恋を夢見ているだけなのかもしれませんわね」
まるきり、他人の呟きであった。
「圭一様は? お幸せ?」
二つ目の貯古齢糖が、口の中で溶けた。
「幸せと言うには不幸ですし、不幸と言うには幸せなのだと思います」
生意気な答えに、彬子は顔を上げて微笑んだ。
「笑えるのはいい事です。幸せになるには、笑顔が必要ですものね。
ご覧になって。菊が綺麗に咲いておりますわ」
白や黄色、紫の花が、空に向かって花弁を伸ばし、地上の花火を象る。
「美しいですね」
「花を愛でることのできる人は、きっと幸せになれますわ。保証します」
その言葉は、彬子自身が自分に言い聞かせている、呪文なのだと思った。
義礼が少しでも、彬子に愛情を示したならば、恋物語に憧れる必要はなかっただろう。しかし、夫以外の男に恋心を抱いたとしても、姦通の罪を犯すほど、愚かな女であるまい。
つまるところ、彬子の恋とは、活動写真の中で魅力を振りまく、役者を愛するようなものなのだろう。相手が靡いてくると、彬子は突然現実を思い出す。恋はすっかり、魅力を失ってしまうのだ。
結局、彬子を現実に引き戻したのは、『貴女が独り身ならば』と言った有朋自身の言葉なのだろう。
昨日、隼人から聞いた、有朋の告白を思い出しても、彬子は犯人にあらず。との考えは変わらなかった。
今日、彬子と話しをして、その考えは更に強いものとなった。
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