長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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義史

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 夕暮れ時だった。書庫を出、バルコニーから玄関付近を眺めていると、不審な行動を見せる義史を見つけた。帰ったばかりらしく、背広姿である。

 穏やかな雰囲気を持つ義史が、目を血走らせているのが、二階からも確認できた。共に行動しているはずの、有朋は見当たらない。別行動だったのか、帰りは別だったのか。

 とにかく二人はあまり、気が合わないらしいから、仕事以外では離れているのだろうと思われる。

 なにが起こるのだろう。胸騒ぎよりも先に、好奇心が湧き上がる。数日の内にすっかり、圭は探偵助手になってしまったようだ。

 以前なら、人の行動や感情など、よほどでなければ興味を示したりはしなかった。今は、探偵小説を捲る楽しみを、現実の世界に見出している。

 変われば変わるものである。

 期待を持って、義史を観察し始めて十五分くらい経っただろうか、有朋が帰って来たのが確認できた。

 痩躯に、背広はあまり似合わないものである。有朋は肩幅も広い方ではない。その点に置いては、圭は優越感を持てた。

圭は華奢であるのに、肩幅は広めで、怒り型である。男らしく無い容姿であるが、肩だけは自慢ができた。

 悠々たる足取り、自信家だと思わせられる余裕の表情。隼人の言う通り、自惚れの強さは、無言でさえ人に知らせる。

 いや、むしろ言葉を発すれば、一見謙虚な有朋のこと、たちまち性格を覆い隠してしまうことだろう。

 似ていると言われたせいだろうか、有朋と比べ、張り合おうとしている自分に滑稽さを感じながら、観察を続けた。

 有朋が門を潜るなり、義史が飛び出し、無言のまま、背広の衿元を乱暴に掴み、捻り上げた。唐突な暴力に、しかし、有朋は冷静である。口元には嘲笑気味の笑顔を浮かべ、義史を見つめている。

「なんの真似ですか? まずは理由を聞かせて下さい」

「映子のことだ」

 男にしては高目の有朋の声は良く通り、大して大きな声を出しているわけでもないのに拘らず、圭にも聞き取れる。

「あんなことを教えたのは、君だと言うじゃないか」

「あんなこと? あぁ、あのことですか。なにか問題ありましたか?」

 有朋の言葉で、義史の手に、力が更に加わる。

「問題だと? 常識で考えてみろ! 若い娘に話すことか!」

「どういう意味でしょう。

 猥褻な話をしたわけでもあるまいし、こんな狼藉を働かれるいわれはありません」
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