長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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義史 三

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 「おりますよ。一見優しそうで、魅力的な人が多いのです。お分かりになりませんか?」

 有朋は暫く考えていたが、わからないらしく、その心は? と、軽い調子で問うた。

「興味の欠片も持っていないのに、甘い言葉を囁く色男なんて、女性や、娘を持つ親から見れば、とんでもない悪人だとは思いませんか?」

「なるほど、財産を奪うでも、暴力をふるうでもないから、罪は犯していない。

 君はずいぶんとませたことを考えるのだね。最初は、大人しいだけの子供だと思っていたけど。

 その悪人って、君のこと?」

「まさか。私はさっき、相馬さんが仰ったように子供ですから」

 有朋は圭を真っ直ぐ見た。その目には明らかな敵意が見える。

「しかし、彬子さんも映子さんも、君に夢中じゃないか最近の華族は品がなくなってきていると言われるけど、君を見ていると、人によるのだと思うね」

 玄関の付近では、竜胆の紫が、近付く闇の為に、人の視界から消されようとしている。黒よりも闇に近い、色鮮やかな暗さを持つ、美しい紫が。

「どなたからお聞きですか? 私は華族だったことは、この屋敷の方に話した覚えはありませんが」

 いかにも落ち着いた風を装っていたけれど、一瞬息を止めたことで、有朋がうろたえたのを理解した。

「社長に」

「高林氏とは、面識はありません。彬子夫人は、私の両親をご存知ですけれど」

「社長は彬子さんに聞いたのでしょうね」

 苦しい言い訳の後すぐ、魅力的な笑顔を見せた。

「君のご両親は、仲は良くなかったの?」

 突然の馴れ馴れしい言葉遣いが、さほど厭な気持ちはしない。

「いいえ、評判の鴛鴦夫婦でした」

「失礼。君の、人への態度が冷たいのは、不仲なご両親を見て育ったからかと思って」

 有朋自身の経験によるものだろう。

「私は、生まれ持った性格でしょう」

「僕が嫌いでしょう?」

 どういう意味で言っているのだろうかと、有朋を見た。有朋は目を閉じたまま、言った。

「長瀬さんを取られるのではないかと、思っているのでしょう?」

 開かれた目は、感情を何も、示してはいなかった。

「逆だよ。君が取るんだ」


 どういう意味なのか、問おうとしたが、叶わなかった。

「噂をすれば、影。行こうか」

 勝手に、有朋は階段を下りて行く。

 圭は荷物を手にすると、彬子にお暇の挨拶に行った。
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