長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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哲学

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 「外部の人間ではない」

 夕食を終えてお茶を飲みながら、隼人は断定的に言った。

「根拠は?」

「まず、あの家の構造を考えれば、わかるだろう? 義史邸のように全て洋室にしていれば、扉だから部屋の音は外に漏れず、鍵も掛かる。

 しかし、義礼邸は全て和室だ。殆どの部屋が紙か硝子の障子で、唯一の例外は彬子夫人の部屋だけ。それでも襖なんだ」

 義礼の寝室は書斎の奥で窓も無く、廊下に面してもいない。書斎は、障子の真ん中辺りは硝子張りで、中が確認できる。

 そうでなくとも、人の影が映るのだ。一人暮らしならともかく、高林家には、家族もいれば、使用人もいる。

「まぁ、確かにな」

「どうでしょう。

 資産家が殺されそうになった。となると、まず疑って見るべきは、被害者がいなくなって得をする人間です。

 まず、彬子夫人はあり得ません。義礼氏が亡くなれば、未亡人としてつましく生きていくことは可能でしょうが、実家への援助は期待できなくなるでしょう。

 次は相馬さんですが、養子縁組が終わった後なら兎も角、まだなのですから、今死なれては困るのです。

 義史氏のご家族も、世間一般から見れば怪しくはあるでしょうが、失礼ながら、あの方には事業を拡大させる手腕は無いと思われます。義礼氏あっての高林なのです。

 いくら資産家でも、湯水のようにお金を使う妻子がいる以上、義礼氏が生きていてくれた方がずっと得なのです。
 
 女中さんから聞いたのですが、二人の夫人は正反対なのだそうです。

 彬子夫人は数枚の洋服を作ったばかりで、着物は、お嫁入りの時に持って来た物と、義母の形見を大事に着ているそうです。

 一方咲江夫人は、ドレス、着物、装飾品の類は頻繁に購入し、週の半分は遊び歩いているようです」

「兄が稼いで、弟が使ってるのか。どうやら圭ちゃんは、彬子夫人が気に入ったようだな」

「そうですね。最初は冷たい人だと思いましたが、本当の彬子夫人は、優しい。相馬さんへの恋心を認めるような発言はありましたが、すっかり冷めているようです。あの方は、危険な恋は好まれない方ですよ。

 私の父が、初恋の相手だと仰っしゃりながら、必ず母も一緒に思い出されるのです。本当は、仲睦まじい夫婦が羨ましいのだと思われます」

「一番怪しいのは、後先を考えそうにない、映子嬢か?」
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