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草履 四
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「通訳です。
時には洋行にも参りましたが、その際には食事が大変だったようです。ハイカラなように見えて実は、西洋の食事が苦手だったものですから」
「え? でも、ショコラが好きだったって言ってなかった?」
「甘い物が好きでしたから。
洋行の度に、他の方は目方が増えたと仰るのに、父だけはやつれて帰って来るのです。
ですから母は、父が帰って来たら、とびきり美味しい物を食べさせて上げるのだと、張り切っておりました。
今回は、戻って来ませんでしたけれど。
大層仲の良い夫婦でしたから、母の落胆ぶりは、見ていられませんでした。以来、臥せってしまって」
圭は話をしたいのか、隼人の本当の目的を察したのか、話は実家ではなく、家族に、そして、あの事件に移って行った。
「母はいつも、裏庭のお勝手に一番近い部屋で、寝起きしておりました。気分の良い時は、縁側で繕い物や編み物をして……あの日もやはり。
御用聞きや、親しい方はお勝手からいらっしゃいますから、日中は鍵をしておりませんでした。
母は庭で、足をお勝手口側に向けて倒れておりました。当然、犯人はお勝手から入ったと、誰もが考えました。
警察が調べたところ、靴の跡が見つかったのです。
あのお勝手を使われている方々は皆、草履か下駄履きですから、犯人は洋装の男だと推理できます。
母は草履を履いていました。
警察の方はなんとも思わなかったようですが、犯人に対して、母は警戒していなかった証拠だと、私は思います。
お勝手を使うのは近所の方や御用聞き。母はいつも、縁側に座ったまま迎えていました。それくらい、気のおけぬ人しか使わなかったのです。
それなのに、あの日に限って、母は草履を履いて、相手を迎えに行こうとしていたのです。
警察は、逃げようとしたのだと言いました。
でも、逃げようとする非常時に、わざわざ草履を履こうとする人があるでしょうか? なにより、危険な相手のいる外になど出ず、戸を閉める方が自然です。或いは、悲鳴を上げるべきです。
犯人は顔見知りです。抵抗の跡がなかったのがその証拠です」
静かながら興奮しているのか、洋燈の薄暗い炎でも、圭の顔が赤くなっているのが分かった。
「警察に言ったのか?」
「はい」
時には洋行にも参りましたが、その際には食事が大変だったようです。ハイカラなように見えて実は、西洋の食事が苦手だったものですから」
「え? でも、ショコラが好きだったって言ってなかった?」
「甘い物が好きでしたから。
洋行の度に、他の方は目方が増えたと仰るのに、父だけはやつれて帰って来るのです。
ですから母は、父が帰って来たら、とびきり美味しい物を食べさせて上げるのだと、張り切っておりました。
今回は、戻って来ませんでしたけれど。
大層仲の良い夫婦でしたから、母の落胆ぶりは、見ていられませんでした。以来、臥せってしまって」
圭は話をしたいのか、隼人の本当の目的を察したのか、話は実家ではなく、家族に、そして、あの事件に移って行った。
「母はいつも、裏庭のお勝手に一番近い部屋で、寝起きしておりました。気分の良い時は、縁側で繕い物や編み物をして……あの日もやはり。
御用聞きや、親しい方はお勝手からいらっしゃいますから、日中は鍵をしておりませんでした。
母は庭で、足をお勝手口側に向けて倒れておりました。当然、犯人はお勝手から入ったと、誰もが考えました。
警察が調べたところ、靴の跡が見つかったのです。
あのお勝手を使われている方々は皆、草履か下駄履きですから、犯人は洋装の男だと推理できます。
母は草履を履いていました。
警察の方はなんとも思わなかったようですが、犯人に対して、母は警戒していなかった証拠だと、私は思います。
お勝手を使うのは近所の方や御用聞き。母はいつも、縁側に座ったまま迎えていました。それくらい、気のおけぬ人しか使わなかったのです。
それなのに、あの日に限って、母は草履を履いて、相手を迎えに行こうとしていたのです。
警察は、逃げようとしたのだと言いました。
でも、逃げようとする非常時に、わざわざ草履を履こうとする人があるでしょうか? なにより、危険な相手のいる外になど出ず、戸を閉める方が自然です。或いは、悲鳴を上げるべきです。
犯人は顔見知りです。抵抗の跡がなかったのがその証拠です」
静かながら興奮しているのか、洋燈の薄暗い炎でも、圭の顔が赤くなっているのが分かった。
「警察に言ったのか?」
「はい」
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