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草履 六
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「嫌な事を思い出させて悪かった」
「いいえ、私も話したかったのです。
また、眠くなってしまったので、失礼します」
心配させまいとしてか、無理をしたような笑顔を見せて、圭は部屋へと戻って行った。
「高林はまだ、幸せだよな、命は助かったんだから。犯人が捕まらん限り、安心はできないだろうけど。
高林の件が落着したら、圭ちゃんの仇を探してやれば?」
「ん? あぁ」
「気のない返事だな」
「見つけ出せたとしても、死んだ人は戻って来ないんだ。むしろ、犯人を見つけることで、徒に彼の気持ちを掻き乱さなくても。と、思わなくもない」
「見つかろうと見つかるまいと、恨みが消えることはないさ」
恨みが消えないのは、わかっている。それでも、知らずにいた方が心穏やかでいられる可能性だってあるのだ。
「ところで、なんで今日、高林に犯人教えなかったんだ?」
「人がひとり死んだのに、そんな場合じゃないだろう」
まっとうな答えに満足しないらしく、勇一郎は探るような目を向ける。
「確かに、そう考えるのはおかしくないだろうけど、伝えるだけならほんの二三分で済む。高林だって落ち着けるし、大した問題じゃないだろううが。
別に、本人に伝えなくても、警察に伝えるって手もある」
正論だろう。問題の起きた今だからこそ、義礼の心の負担を、僅かでも軽くしてやるべきなのだという、勇一郎の意見もわかる。
しかし、できない理由があった。はっきりと提示できる証拠が無い分、ゆっくりと話をする必要があったのだ。
「明日は荒れるだろうな」
「午後には明けるだろう」
「明後日、手伝ってくれないか。これ以上被害者が出ないように」
最早、悠長に証拠を探している場合ではない。
「代わりに、犯人教えろよ。絶対に口外しないから」
躊躇わないでもなかったが、今はとにかく、味方が欲しかった。
圭には申し訳ないが、勇一郎には、新聞記者としての実績があった。疑惑を持ちながらも、平然と容疑者と話せる器用さを持ち合わせている。
圭に話せないのは、信頼の有無ではなく、実績の有無であった。
「わかった。耳貸せ」
風雨は益々激しくなっている。同じ部屋に居てさえ、近付かなくては話もできない。
圭はすでに眠っているだろうから、他には誰もいないに等しい。
「いいえ、私も話したかったのです。
また、眠くなってしまったので、失礼します」
心配させまいとしてか、無理をしたような笑顔を見せて、圭は部屋へと戻って行った。
「高林はまだ、幸せだよな、命は助かったんだから。犯人が捕まらん限り、安心はできないだろうけど。
高林の件が落着したら、圭ちゃんの仇を探してやれば?」
「ん? あぁ」
「気のない返事だな」
「見つけ出せたとしても、死んだ人は戻って来ないんだ。むしろ、犯人を見つけることで、徒に彼の気持ちを掻き乱さなくても。と、思わなくもない」
「見つかろうと見つかるまいと、恨みが消えることはないさ」
恨みが消えないのは、わかっている。それでも、知らずにいた方が心穏やかでいられる可能性だってあるのだ。
「ところで、なんで今日、高林に犯人教えなかったんだ?」
「人がひとり死んだのに、そんな場合じゃないだろう」
まっとうな答えに満足しないらしく、勇一郎は探るような目を向ける。
「確かに、そう考えるのはおかしくないだろうけど、伝えるだけならほんの二三分で済む。高林だって落ち着けるし、大した問題じゃないだろううが。
別に、本人に伝えなくても、警察に伝えるって手もある」
正論だろう。問題の起きた今だからこそ、義礼の心の負担を、僅かでも軽くしてやるべきなのだという、勇一郎の意見もわかる。
しかし、できない理由があった。はっきりと提示できる証拠が無い分、ゆっくりと話をする必要があったのだ。
「明日は荒れるだろうな」
「午後には明けるだろう」
「明後日、手伝ってくれないか。これ以上被害者が出ないように」
最早、悠長に証拠を探している場合ではない。
「代わりに、犯人教えろよ。絶対に口外しないから」
躊躇わないでもなかったが、今はとにかく、味方が欲しかった。
圭には申し訳ないが、勇一郎には、新聞記者としての実績があった。疑惑を持ちながらも、平然と容疑者と話せる器用さを持ち合わせている。
圭に話せないのは、信頼の有無ではなく、実績の有無であった。
「わかった。耳貸せ」
風雨は益々激しくなっている。同じ部屋に居てさえ、近付かなくては話もできない。
圭はすでに眠っているだろうから、他には誰もいないに等しい。
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