長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

文字の大きさ
89 / 126

草履 六

しおりを挟む
 「嫌な事を思い出させて悪かった」

「いいえ、私も話したかったのです。

 また、眠くなってしまったので、失礼します」

 心配させまいとしてか、無理をしたような笑顔を見せて、圭は部屋へと戻って行った。

「高林はまだ、幸せだよな、命は助かったんだから。犯人が捕まらん限り、安心はできないだろうけど。

 高林の件が落着したら、圭ちゃんの仇を探してやれば?」

「ん? あぁ」

「気のない返事だな」

「見つけ出せたとしても、死んだ人は戻って来ないんだ。むしろ、犯人を見つけることで、徒に彼の気持ちを掻き乱さなくても。と、思わなくもない」

「見つかろうと見つかるまいと、恨みが消えることはないさ」

 恨みが消えないのは、わかっている。それでも、知らずにいた方が心穏やかでいられる可能性だってあるのだ。

「ところで、なんで今日、高林に犯人教えなかったんだ?」

「人がひとり死んだのに、そんな場合じゃないだろう」

 まっとうな答えに満足しないらしく、勇一郎は探るような目を向ける。

「確かに、そう考えるのはおかしくないだろうけど、伝えるだけならほんの二三分で済む。高林だって落ち着けるし、大した問題じゃないだろううが。

 別に、本人に伝えなくても、警察に伝えるって手もある」

 正論だろう。問題の起きた今だからこそ、義礼の心の負担を、僅かでも軽くしてやるべきなのだという、勇一郎の意見もわかる。

 しかし、できない理由があった。はっきりと提示できる証拠が無い分、ゆっくりと話をする必要があったのだ。

「明日は荒れるだろうな」

「午後には明けるだろう」 

「明後日、手伝ってくれないか。これ以上被害者が出ないように」

 最早、悠長に証拠を探している場合ではない。

「代わりに、犯人教えろよ。絶対に口外しないから」

 躊躇わないでもなかったが、今はとにかく、味方が欲しかった。

 圭には申し訳ないが、勇一郎には、新聞記者としての実績があった。疑惑を持ちながらも、平然と容疑者と話せる器用さを持ち合わせている。

 圭に話せないのは、信頼の有無ではなく、実績の有無であった。

「わかった。耳貸せ」

 風雨は益々激しくなっている。同じ部屋に居てさえ、近付かなくては話もできない。

 圭はすでに眠っているだろうから、他には誰もいないに等しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...