長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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草履 八

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 圭は夢でも見ているのか、うなされながら、聞き取れぬ寝言を何度か発した。

 母親の夢を見ているのだろうか。

 貧しいとはいえ、それは華族としてであって、少なくとも圭は、食べるに困ったことはなかった。学校にも通っていたし、洋服を日常着にするだけの財力はあった。家族仲も良く、まず、幸せと言える生活を送っていたのだろう。

 父親の死。

 そんな不幸の中でも、圭には母親がいた。母親にとって圭が心の拠り所であったように、圭にとっても、母親を守らなければとの思いが、支えになったのだろう。

 ただひとりとなった肉親である母親の死体を見つけた時、どんな気持ちだったのだろうか。 

 白い秋桜コスモスは、風に戦いでいたのだろうか。

 たった十五歳の、後ろ盾を持たぬ子供が、不動産を手放し、爵位返上を手際よくこなしたのは、一時とて心に空白を作りたくなかったからではないだろうか。

 温かな思い出に満ち溢れた家が血で汚されたように、母親との優しい思い出が、笑顔が全て、死に顔にとって変わられたのではないだろうか。

 幸せであればあるほど、両親を失った悲しみは、計り知れない大きさになって、幼い心に襲いかかる。

 有朋はどうだろうか。

 まだ五歳の幼子であったが、父親の優しさを覚えている。その一方で、家族を失う原因となったであろう義礼も、有朋にも優しい。自らを守る為に、家族を忘れたふりをし、仇とも言える義礼の庇護に甘える自分を、どう思っていただろうか。

 反面、映子の存在を敵視するような表情も見せる。有朋も子供として、父親に甘えたいのではないだろうか。

 圭と有朋が似ているように見られるのは、幸せを中断された苦しみを忘れようと、必死になっているからではないだろうか。

 吹き出す汗を拭き、額を冷やす。

 明け方には熱も下がり、息も落ち着いた。外はまだ、荒れている。

 窓を叩く音とは別の、風が吹き鳴らす高い音を耳にして、何度めかのうたた寝から目が覚めると、ちょうど圭も起きたばかりらしかった。

「具合はどう?」

 寝起きの良くない圭は、暫くぼんやりと隼人を見ていたが、意味をやっと理解できたのか、嬉しそうに微笑んだ。

「お陰様で、大分良いです」

 体調の良さを教えるかのように、空腹を示す音がした。圭は恥ずかしそうに頬を染めているが、隼人は安堵した。
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