長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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草履 十

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 圭の英國語能力は、驚くべきものであった。専門用語をたまに質問するだけで、日本語と変わらぬ速さで読んでいる。本人曰く、津田梅子女史は六歳で渡米したのだから、自分などまだまだ。なのだとか。

「あら? これはどうやら、高林さんの本らしいですね」

 圭が読んでいた医学書は薄く、図が多かったからか、早くも最終頁に辿り着いていた。

 裏表紙の内側を指差す。

「ここに、高林とあります」

 楕円形の中に書かれた飾り文字は、確かに、高林と読める。

「雇い主の本を他人に貸すなど、随分と乱暴なことをするのですね」

「相馬に譲ったのかも知れない。

 にしては、随分と新しい物だな」

「そうとも考えられますが、相馬さんの高林家での態度を見ると、勝手に貸したのではないかと思わせられます」

 初めて義礼と会った時のことを思い出す。

 有朋の隣でうろたえていた義礼は、見ようによっては卑屈にも見えた。義礼は有朋に、強く言える立場ではないのだろう。

 言葉遣いが丁寧なだけに、有朋は部下として、相応しい態度を取っているように見えるが、慇懃無礼いんぎんぶれいにも見える。

 そもそも、有朋に服従は似合わない。

 昨夜、中途半端な睡眠しか取っていないせいか、眠気が襲ってきた。噛み殺しても噛み殺しても、欠伸が止まらない。依頼された事件が全く進展していないのに、呑気なものだと思わないでもないが、圭の勧め通り、寝台に横になる。

 まさかこんな日にあの警察官は来るまいが、なにかあったら大声を出すよう言い含めて、部屋の扉は開いたまま、眠りに就いた。



 揺すぶられて目が覚めた。なにか起きたのかと飛び起きると、目の前には、情けない顔をした勇一郎が立っていた。

「眠いけど、腹が減って眠れねぇ」

 だから、なにか食べる物を用意しろ。との意味だろう。

「だったら食ってから帰って来い」

「どっこも開いてない」

 普段ならば自分で勝手に用意できる男であるから、よほど疲れているのだろう。時計を見ると正午を回ったばかりだった。

「そうそう、聞いてくれよ。今日、帰る前に高林の家の前歩いたんだけどな、噂の警官に会ったぞ。

 俺のことも知ってたらしくて、例の帳面を持っていたら、突進して来て、無理矢理ふんだくって行きやがった」
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