長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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草履 十一

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 勇一郎という男は、この家にいる時はいつも、上機嫌か疲れているかのどちらかだが、今日はその両方なのだから、恐れ入る。 

 いや、今は恐れ入っている場合ではない。
 
「お前、あれを隠していなかったのか!」

「大丈夫だって、表紙だけなんだから、なんの役にも立ちゃしないって。その後、山科の所に行こうと思ってたんだ。からかいにな。

 今頃あの警官、こっぴどく叱られてるだろうな」

「大事なのは中身なのに、外側だけを持って帰っても意味はないでしょうからね」

「これが本当の、拍子(表紙)抜けってね」

 酔っぱらいの如き上機嫌である。

 が、反して圭は、氷の如き冷たさであった。

「この場合、抜けていたのは表紙ではなく、中身でしょう?」

「洒落心のない奴だなぁ」

「くだらない洒落に付き合えるほど、大人ではありません」

 普段は、子供扱いすると怒るくせに、随分と狡い子供である。

「それにしてもあの警察官、高林家にいたということは、長瀬さんを狙っていたのでしょうか?」

「君かも知れない。気をつけろよ」

「はい。もう、あんな怖い目に遭うのは嫌ですから」

 珍しくしおらしい圭の頭を、勇一郎は遠慮無しに撫で回した。

「じゃ、ちょっと寝るけど、六時に起こしてくれ」

 大きな欠伸を一つして、勇一郎は部屋に消えていった。

 すっかり目の覚めた隼人は、本の続きを読もうと思ったのだが、圭が真剣な顔で読んでおり、仕方ないので医学書を開く。

 よそ見しながら開くと、解剖図が現れた。皮膚も筋肉も皮下脂肪をも取り去った人間の姿が、見開きいっぱいに描かれている。それも、首から下、足の付け根から上、つまり、内臓器官を中心に。

 一旦閉じ、また開く。

 一頁目を開きたいのだが、まるで手品かなにかのように、解剖図が姿を表す。

 再度挑戦。もう一度。

 何度やっても解剖図は姿を消そうとはしなかった。

「どうなさいました? さっきからパタパタと」

「いや、なんでもない。邪魔して悪かった」

「邪魔に思ったわけでは無いのですが」

 そう言ったきり、圭は本に視線を移してしまった。

 落ち着いてもう一度、一頁目を捲るつもりで開いてみる。
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