長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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秘密

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 翌朝、泥濘ぬかるんだ道をいつも以上に時間をかけて、高林家に辿り着いた。

 圭はあれから、敏がどうなったのかが気になって仕方がない。

 映子が改心して、敏の為に約束を守ってくれてはいないだろうか。と考えるのだが、彬子の浮かない顔を見て、自分の考えが甘かったと知った。

「申し訳ありませんが、昨夜から高林の様子がおかしいので」

 今日はお帰り下さい。と言おうとしたのであろう。突然、義礼が寝ている部屋の障子が開いた。

「おはようございます。

 麻上さん、今日も家内をお願いしますよ」

 蒼白の顔色。やつれて、目ばかりがぎらぎらと大きく見える。

 どうしたことか、つい二日前まで圭を毛嫌いしていたくせに、今はお愛想笑いを絶やさずにいる。

「でも、あなた」

「お前はいつも、楽しみにしているだろう? 

 ゆっくりとして頂きなさい」

 それだけ言うと、静かに部屋に戻って行った。

 隼人は義礼を、快活で豪快な実業家。と言ったが、圭にはそう見えたことが一度としてなかった。なにかに怯える、弱い男としか。

 なにに対して怯えているのかは、わからない。

 自分を殺そうとした犯人に対して?

 いや、そうではない。

 幽霊?

 そちらの方が近いように思われる。

 いずれにせよ、自分の思いのままにならぬなにかに、彼の心は支配されているに違いなかった。

「どこから山科の手が伸びてくるかわからないから、気をつけて」

 他の人間に聞こえぬよう、隼人が小さく囁く。

 圭は頷くと、隼人を送り出し、屋敷に上がった。彬子が戸惑っているのがわかる。

「こんな時に、図々しく押しかけて、申し訳ありません」

「いいえ、本当は来て下さって、嬉しいのです。高林と二人だけだなんて、恐ろしくて」

 言葉は嘘ではないらしく、指先が小刻みに震えている。

 彬子は圭を手招きすると、食堂に向かった。

「なにがあったのですか?」

 彬子は、椅子に座るのさえ、億劫おっくうそうだった。

「昨夜遅く、突然、良人おっとの叫び声が聞こえたのです。なにかに憑かれたのかと、本気で思いました。

 義史さんと私が駆けつけて、どうしたのかと問いますと、なんでもないと言って、なにかを蒲団の下に隠す仕草をしました。

 ご覧になられましたでしょう? 目を真っ赤にして、憔悴しきって。

一晩中眠れなかったに違いありませんわ」
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