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カミソリ 六
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「彼女は途方に暮れているようでした。
あの時は、死体を目の当たりにして、平常心を失っているのかと思ったのですが、彼女は真剣に悩んでいたのです。
敏さんが亡くなったので、血液の提供者がいなくなってしまった。自分の若さが、日に日に失われる恐怖と闘っていたに違いありません。
我慢できなくなって、男である圭君で妥協したのでしょう。
問題は、血を求めるようになった切っ掛けです。彼女はいつ、血が若さを保つ薬になると思いついたのでしょうか? 本能で、敏さんの血を啜り始めたとは思えません。
なにか、偶然の切っ掛けがあったはずです。咲江夫人、ご存知ありませんか?」
咲江は、隼人の言葉に、床に崩れ落ちると、大声で泣き出した。
「まさか、一月前に殺されたあの子は、映子さんが」
「当然の報いだわ。あんな高慢な女、殺されて当然なのよ」
彬子に対し、映子は答えを吐き捨てた。
「血を体に塗ると、とても綺麗になれると聞いたことを、あの女の死体を見ていて思い出したの。
それでね、考えたの。塗るよりも、飲む方が綺麗になれるんじゃないかしらって。もっと早く気が付けば、あの女を生かしておいたのだけど……。
それに、お母様に取り上げられてしまったし。まだ少し血が残っていたのに、もったいなかったわ」
「死んでしまった人間の血は、すぐに駄目になってしまう。だから、生きた人間が必要になった。
そこで、高林家に来て間もない敏さんと取引をして、血を飲ませることを承知させた。そうですね?」
「そうよ。家族を飢えさせないこと、二歳違いの弟を大学まで行かせること。
約束は守っていたわ。家族への仕送りのお金は渡していたもの」
映子は、隼人から三尺ほど離れた場所にある椅子に腰掛けると、さて。と、低い声を出した。
「私のことばかりじゃ不公平だとは思わない? 伯父様がどうして、私を騙したのかを知りたいわ。
貴方、知っているのでしょう?」
隼人は映子から、視線を義礼に移した。
「事の起こりは二十二年前ですね」
義礼は、力なく頷いた。
憔悴しきった顔から、安堵が見て取れた。
あの時は、死体を目の当たりにして、平常心を失っているのかと思ったのですが、彼女は真剣に悩んでいたのです。
敏さんが亡くなったので、血液の提供者がいなくなってしまった。自分の若さが、日に日に失われる恐怖と闘っていたに違いありません。
我慢できなくなって、男である圭君で妥協したのでしょう。
問題は、血を求めるようになった切っ掛けです。彼女はいつ、血が若さを保つ薬になると思いついたのでしょうか? 本能で、敏さんの血を啜り始めたとは思えません。
なにか、偶然の切っ掛けがあったはずです。咲江夫人、ご存知ありませんか?」
咲江は、隼人の言葉に、床に崩れ落ちると、大声で泣き出した。
「まさか、一月前に殺されたあの子は、映子さんが」
「当然の報いだわ。あんな高慢な女、殺されて当然なのよ」
彬子に対し、映子は答えを吐き捨てた。
「血を体に塗ると、とても綺麗になれると聞いたことを、あの女の死体を見ていて思い出したの。
それでね、考えたの。塗るよりも、飲む方が綺麗になれるんじゃないかしらって。もっと早く気が付けば、あの女を生かしておいたのだけど……。
それに、お母様に取り上げられてしまったし。まだ少し血が残っていたのに、もったいなかったわ」
「死んでしまった人間の血は、すぐに駄目になってしまう。だから、生きた人間が必要になった。
そこで、高林家に来て間もない敏さんと取引をして、血を飲ませることを承知させた。そうですね?」
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