長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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地獄

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 「若かった私は恋をしていた。相手は年上の、美しい人妻。私は気持ちを押さえる術を知らなかった」

 二週に一度の逢瀬。

 出会って一年後、女は身篭った。父親は良人おっとか、義礼かは分からないと言う。幸い、子供は母親に生き写しで、父親の面影を伝えはしなかった。
 
 良人の満は、子供を目に入れても痛くないほどの可愛がりようで、女と義礼を安心させた。満の優しさが、二人の逢瀬を続けさせた。

 しかし、いつまでも騙せるはずもない。

 二人目の子供は、夫婦のどちらにも似ていなかった。鈍感だとばかり思っていた満は、密かに妻の愛人を突き止めていた。そうして、二人目の子供に、愛人の面影を見たのだ。

 義礼は心を痛めながらも、決心できずにいた。父親はまだ健在で、姦通の罪が知れれば、勘当されるに違いなく、全てを捨てて、恋人と新しい生き方を模索する勇気は無かった。

 そんなある日、満から呼び出された。会いたくはないが、逃げることもできない。

 唯一、事情を知る友人、山科に頼んで、ついて来てもらった。関係のない人間がいれば、満も少しは体面を気にするだろうとの計算だった。

「山科は学生時代から、問題ばかり起こしていたが、小さなことも気にする私から見ると、豪快で、男らしく見え、憧れてもいた。

 今ならば、豪快に見えたのは無責任故で、男らしく見えたのは乱暴なだけだったのだとわかるのが、まだ、若かったのだ」

 店は閉まっていた。義礼は勝手口からこっそり中に入り、声もかけずに玄関を開いた。

 不用心なのか、義礼の為に開けてあったのか、苦もなく扉は開いた。玄関に立ったまま、様子を伺っていた。人がいるようには思われない。誰もいないか、寝静まっているか。そんな静けさが漂っていた。

 訝しみながら、家に上がり、抜き足差し足で廊下を歩く。

 一番奥の部屋の引き戸が開いていた。中の様子が見える。義礼の場所からは、足袋を履いた女の足が見えた。

 指がまっすぐ、天井を向いている。

 動悸が激しく鳴るのを宥めながら、扉の、隙間に顔を突っ込み、見回す。

 満が有朋の首を絞めていた。

 思わず、倒れている女に駆け寄り、胸に突き立てられていた出刃包丁を引き抜くと、満の背中を何度も刺した。

 満は最後の力を振り絞って、後ろに向いた。鬼の形相に、義礼は思わず後退った。
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