長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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地獄 五

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 「再び罪を犯すことで、山科に新たな弱みを握らせるとは思わなかったのですか?

 どちらにせよ、ニ十ニ年間、貴方が苦しんだのは事実であったとしても、反省が完全ではなかったようですね」

「私は怖かったんだ」

「私だって怖かった!」

 悲しみを抑えられぬ幼子のように叫ぶと、今で見たことがないほど冷たい目で、圭は義礼を睨めつけた。

「突然、父を失って以来、母を守れるのは私だけだと、ずっと自分に言い聞かせてきました。私のそんな決意さえも、貴方は殺したのです。

 確かに、地位のある貴方は、社会から抹殺されるのが恐ろしく感じられたのでしょう。しかし、貴方にはやり直す機会がありました。年月を経れば、人の記憶は薄れていきます。それまで、屋敷の中で大人しくしておけば良かっただけではありませんか?

 財も地位も、欲も全て投げ出して、罪を悔い改めるべく、時間を費やせば良かったではありませんか」

「子供の君に、何がわかる。人は醜聞に限っては、よく覚えているものだ。私は一生、太陽の下を歩けなくなってしまう。その恐怖が、君にわかるのか」

「自業自得でしょう」

 廊下から、一際冷たい声が聞こえた。背広に身を包み、乱れなく髪を撫で付けた有朋が、部屋に入って来た。

「兄さん、どういうことだ? どうして映子を巻き込む必要があった?」

 随分と前に戻っていたようだ。物々しい雰囲気に、近寄れなかったのだろうか。それとも、あまりのことに呆然としていたのだろうか。

「落ち着いて下さい。

 すっかり忘れられているようですが、俺は決して、元男爵家の事件を探偵していたのではありません。これは偶然の副産物に過ぎないのです」

「そうでしたね。

 長瀬さんには僕が、社長を傷付けた犯人を探してほしいと、お願いしていたのですから。

 見つかったのですね」

 隼人は頷いた。

 すっかり有朋にお株を奪われた形になってしまったが、圭は不満を見せるでもなく、むしろほっとした様子で、二人のやり取りを見ている。

 人を責めるには、自らも苦しまなければならない。今の圭は、心が何よりも疲れている。できるならば圭を外して話を進めたくもあるのだが、本人は納得するまい。

「犯人はもう、逃げる気はないでしょうから、ご心配なく」

「つまり、この中にいるのですね」
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