長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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覚悟 二

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 「手を出して」

 素直に差し出された手を取り、巻かれた包帯を外そうとしたが、血液が乾いて貼り付いている。
 
 ウォッカで血液部分を湿らせながら、ゆっくりと引き剥がす。時々眉をひそめながらも、圭は耐えて、大人しく隼人のなすがままになっている。

 細い手首に、石榴石のような赤い筋が、酷たらしく引かれていた。

 普段は白い皮膚の下に隠れているからなんとも思いはしないが、姿を現すと、なんと恐ろしく見えるものか。

 神秘の妙薬として、遥かなる時間を、いくつもの国を惑わせた、誰もが持つ赤い液体。だが、命の源も、か細い腕に反乱を起こせば、ただ、痛々しいだけ。

 幸い、傷は深くなかった。二人の人間を死に至らしめただけあって、加減ができるようになっていたのだろう、敏の手首にあった傷より短く、浅かった。

 外した包帯を食卓の上に置き、傷の上にウォッカを零すと、圭は喉の奥で呻きながら、突っ伏してしまった。可哀想だとは思うが、今、一番大事なのは体である。圭の為を思うなら、遠慮をしてはいけない。

「私のせいだったのですね」

 何が? とは問えなかった。

「私がいなければ母は、あんな目に遭わずに済んだのですね」

 余分なウォッカを拭き取って、新しい包帯を巻きつける。先を二寸ほど裂いて、細い手首に一巻きすると、蝶々結びをした。

 圭はずっと泣くきっかけを探していたのだろう。耐えきれずに肩で激しく息をしている。

「泣けばいい。今は感情に任せて、泣けばいいよ。

 でも、自分を責めてはいけない。そんな愚かな考えを持ってはいけない。そうだろう? 今は素直に、両親を思って泣けばいい。余計な事は考えずに」

 聞こえているのかいないのか、泣くことだけに必死になっている。今まで必死に堪えてきた感情が、緊張していた心が、堰を切って溢れてきたのであろう。

 右手を握りしめて、しかし、隼人はそれ以上言葉にはしなかった。これからは俺がいる。と、わざわざ言葉にしなくとも、温かな手の平が語ってくれるだろう。なにしろ隼人にも、両親を思う圭の気持ちが流れ込み、目頭を熱くするのだから。

 夜中、律儀に約束を守って勇一郎が戻って来た時には、二人共目元を赤く腫らしていたが泣き止んでおり、ぽつりぽつりと幼い頃の話をしていた。
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