長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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旧友 三

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 名を相馬有朋そうまありともと言い、隼人が知る限り、最も美しい人物である。

 印象的に大きな目、赤い唇。

 二十代半ばでありながら、中性的な容姿は変わっていない。

 ふと横を見ると、三揃えを品良く着こなした紳士が立っていた。

「そちらの方は?」

「僕の雇い主の、高林義礼よしあきらです」

「高林? 高林商事の?」

「はい」

 義礼が会釈したのに合わせて名乗ると、事務所に入るように、手で示した。

「申し訳ありません。こちらへどうぞ」

 年は五十手前だと、何かで読んだ記憶がある。

 一見、年齢より若く見えるが、髪は半分近く白くなっている。

 背丈は隼人より二寸程低いだろうか。

 やや角張った顔に細い目。実業家というよりは、武士の風格を持っている。

 日本で、彼を知らぬ者はおるまい。

 小さな商家の長男で、幼い頃から秀才の誉れが高かったそうだ。

 加えて、先を読む目に優れ、今や、小さかった商家は、財閥に今一歩と言われるまでに大きくなった。

「高林様のご依頼は?」

「いえ、依頼したいのは私ではなく、相馬なのです」

 有朋がニコリと笑んだ。

「僕の従兄弟を捜して頂きたいのです」

 よりにもよって、難儀な依頼を持ち込んでくれたな。と心の中で呟きつつ、万年筆の蓋を外した。

「従兄弟?」

「はい。母方の従兄弟を」

 隼人は学生時代、有朋から聞かされた話を思い出していた。


 幼い頃両親と死別し、義礼に引き取られた。

 が、その頃の記憶は一切無く、義礼との関係も知らぬままである。と。

 聞けばいいじゃないか。と、軽く言う隼人に、珍しく有朋は、緊張の面持ちで答えた。
 
 聞けない。聞いてはいけないと、何かが止めるのだ。と。

 何が? と問うて隼人は、有朋を振り返った。

 有朋の瞳は涙で濡れ、潤んでいた。

 その涙は頬を伝う事は無かったが、初めて見る、有朋の弱気な表情だった。


 分からない。多分、知ってはいけないのだと思う。

 君は、僕を愚かだと思うだろうね。

 呆れてくれてもいい。

 軽蔑してくれてもいいよ。

 僕にはできない。

  社長に、何も問えないのだ。


 隼人の回想を打ち破ったのは、え? と低く響く声だった。

「従兄弟?」

「えぇ。最近思い出したのです。確か、母には妹がいて、赤ん坊を抱いていました。男か女かは思い出せませんが」
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