長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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事件 二

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運転手は手の甲で汗を拭うと、こっちへ来いとばかりに手を振る。

「何があったのですか?」

 運転手の落ち着きの無さに、不安がよぎる。

「は、はい。社長が大変な事に」

 義礼? 

 隼人は有朋の叔母を捜索するはずだが? 

 と考えはしたものの、運転手はそれ以上説明をしようとせず、と言うよりも、答える余裕は無さそうなので、手帳や万年筆を仕舞っている鞄を手にすると、運転手の招きに応じた。

「高林さんに、何が起きたのですか?」

「警察に、聞いて頂けますか?」

 隼人の質問に答える余裕もないらしく、運転に忙しい。

(警察ってことは、事件? 事故?)

 昨日の義礼を思い出せば、もしや。と思わないでも無かったが、運転手は、死の一言は出していない。

 道の、整備されていない下町を抜け、暫く走ると、突然、塀の並ぶ、屋敷町が姿を表した。

 初めて訪れる。二人で出掛ける事はあったが、互いの家を訪ねた事はない。

 古いが美しい和舘の奥に、和洋折衷の新しく、大きな屋敷が見えた。

「こちらです。どうぞ」

 運転手に付いて屋敷に向かっていると、強面の警察官が、こちらに向かって来るのが見えた。

 屋敷に入る人間を監視しているのだろうか?

「誰だ」

「探偵さんです。相馬様に頼まれて、迎えに参りまして」

 運転手はビクビクと、体を縮めて掠れ声を出す。

「探偵が何の用だ」

 問いたいのは隼人の方だった。

 一体いつ、自分は探偵になったのか。

「相馬君を呼んでくれませんか? 自分も詳しい説明を受けていないので」

 融通の利かなさそうな警察官を、見下ろし、威嚇する。

 運転手はオロオロしながらも、屋敷に向かった。

 隼人を睨みつけながらも警察官は、文句を言えないらしい。
 
 権力を笠に着た連中からしてみると、名を馳せる実業家の秘書を呼びつける相手に反論するのは難しいのだろう。

 警察官は言葉にはしないが、隼人をただ、憎たらしそうに睨め付ける。

 鬼瓦のような厳つい顔が、更に、恐ろしい顔になっている。

 その執念深さには、怒りを通り越して、呆れてしまった。

「長瀬さん」

 挨拶も無しに、有朋の声が隼人を呼ぶ。

「じゃ、失礼しますよ」

 目の前を通り過ぎようとする隼人に、警察官の低い声。

「ふん、異人めが」
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