長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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事件 三

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顔色を変えたのは、有朋だった。

「今、なんと」

「落ち着きたまえ。

 それより、何が起きたのか、教えてくれないか?」

 怒りを隠せぬ様子の有朋を宥めながら、玄関から、屋敷の奥へと進む。

 幾つも障子を通り過ぎ、最も奥まった、障子の開いたままの部屋に、有朋は立った。

「ご覧下さい」

 十二畳の部屋で、警察官が四人、あれこれと指差しながら話している。

 部屋の主役は五尺も幅があるらしい机、革張りの椅子。

 壁際には本棚が一面に犇めいているから、書斎であろう。畳の上に、西洋の家具が配されているのが洒落ている。


 ただ、違和感を憶えるものが、ひとつ。


 机の前に、赤い染み。傍には二尺程の、西洋の女神を象った青銅の像が転がっている。

「高林さんが、誰かに襲われたのか?」

「はい。今朝、僕が発見しました。

 毎朝七時に、僕は書斎に参ります。

 いつも通り部屋の前に立つと、人の足が、硝子部分から見えたのです」

 有朋は、障子の真ん中ほどに填め込まれた硝子部分を指差した。

「障子を開くと、倒れていた。と。

 今、高林さんは?」

「気を失ったままです。幸い、出血の割に傷は大したことはないのですが」

書斎を出て、一つ隣の部屋の障子の、硝子部分から覗く。
 
 布団が敷かれ、義礼が横になっているのが確認できた。

 枕元に医師と看護婦がおり、少し離れた場所に、奥方らしき、若い女性が座っている。

 誰も隼人や有朋には気付かないらしく、誰も視線を向けなかった。

「あの女性は奥さん?」

「はい」

 一瞬だけ、有朋の視線がそれた。

 が、すぐに、真剣な眼差しを隼人に戻し、首を傾げる。

「どうしました?」

「俺が呼ばれた理由がわからないのだが」

「犯人を捜して下さい」

「犯人って、警察が」 

「警察など、あてにできません。

 早急に見つけなければ、今度こそ、命を奪われるかも」

 涙を流さんばかりに、潤んだ瞳。叫び声を挙げまいと、結ばれた唇。

 父の様な存在の義礼ならば、特別な感情を持っていもおかしくはない。

 と思いつつも、有朋の悲壮な様子を、必死の言葉を、声を、額面通りに受け取れるほどの誠意を感じない。

「駄目ですか?」

 心配そうな表情を作る有朋に、隼人は興味を持った。

 義礼を傷付けた犯人を捜す。と言うよりは、自分の知らない有朋を探りたい。

 それが隼人の本音だった。
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