長瀬萬請負 其の一 〜紅い髪の探偵〜

岡倉弘毅

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堕落 二

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 不安を煽られて、隼人は慌てた。荷物を掴んで、挨拶もそこそこに高林家を飛び出す。

 さほど時間は経っていない。直ぐに追いつけるだろう。ただ一つ悔やむのは、近道のために、人通りの少ない道を通って来たことだろう。

 何事もなければそれで良い。しかし、圭がひとりになるのを虎視眈々と狙う者があったならば……。

 圭を見つけたのは、走って三分程の距離であった。男と一緒にいる。何故か圭は屈み込むと、男に向かって何かを投げ付けた。

 男が目を押さえて、悲鳴を上げる。土で目潰しをしたようだ。

「圭!」

 とっさに、逃げ出そうとする圭を呼びながら走ると、その場で立ち止まった。

 邪魔者の存在を察して、男は目を押さえたまま、逃げ出す。

 一瞬迷ったが、襲われた衝撃からか、具合の悪さからか、その場で座り込んでしまった圭に駆け寄る。いつもの気の強さはどこへやら、唇の色を失い、体は小刻みに震えていた。

「大丈夫か?」

 はい。と、答えはするが、瞳は潤み、震えは止まない。

 隼人は座り、圭に背中を向けた。戸惑う様子は伺われたが、おずおずと、遠慮勝ちな右手が、隼人の肩に置かれた。

「申し訳ありません」

 身長の割に軽い体。

 震えはやがて消え、少しだけ、重みが増した。緊張が解けたのだろう。

「さっきの男、顔は見た?」

 見ました。と、耳元に小さな声。

「警察官です。長瀬さんと仲の悪い」

「まさか、俺への嫌がらせを、君に」

「いいえ、いつからなのかは分かりませんがあの男、山科の手下に成り下がったのです。

 山科の屋敷から持ち出した物を返せ。と、言われました」

「何を持ち出した?」

「説明し辛い物です」

 気にはなるが、説明し辛いなら、現物を見るしかあるまい。

「圭君、一つだけ確認したいんだ。誤解しないでくれよ、決して責めてるわけじゃない。

 君は、名前を偽っているね」

「騙そうとしたのではありません」

「分かってるよ。確認したかっただけ」

 暫しの沈黙の後、肩に置かれた手に、力が加わった。

「中里さんとお話しになっているのを、扉越しに聞いておりしました。間違いありません、あれは私のことです。

 長瀬さんが気を遣って下さるのをいい事に、甘えていました」

「どうして、隠そうと?」

「体面の良くない事なので、隠しておきたかったのです」
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