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3話 私はお空の星のようです1

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 いやお前、なんで早く自分がフィオナだって言わないんだよ。
 総ツッコミされると思うが、待て待て。私にも理由がある。

 ヒャッハー!! 幼女は最高だぜぇ!
 なんてゲス顔決めてないから。ええ、決して。

 私の飲まされた薬は魔法薬1109A。
 試作段階の薬だった。

 魔法薬1109という薬は毒薬であり、毒も複合体のため解毒薬が見つからなかった。戦争が激化するうえで一番気を付けていた薬だ。

 それだけ知ってるなら、五年も潜入していて解毒薬もなんとか出来ただろう。
 あったよ、解毒薬は。魔法薬1109Aではなく、魔法薬1109のね。

 飲んだ結果、私は何も起きなかったんだ。

 あったのはただの嘔吐と高熱。何もいい事なんてない。
 たぶんだけど、その薬の成分と私が飲まされた薬の成分というのは違うらしく、解毒にならなかったんだ。
 はい、じゃあこの事実を伝えればいいのではー? と思うだろう。

 無理だった。

 かなり真面目に話したんだけど、相手にされなかった。じゃあ幼女になっただけなら両親に聞いてみれば、と思うだろう。
 だがどうしてか、私は薬を飲んだせいで髪と瞳の色が抜けて、黒髪に金目から白髪に赤目になってしまったんだ!!

 わあ!! 特殊設定盛りだくさん!


 いらない、そんな設定。

 おかげで、私を知っている仲の人間に何となくで会わせてもらったけど、みんなしてこの国にして珍しい髪色だなぁ、くらいの反応だった。
 嘘でしょ。もっとガツガツ聞いていこうよ。幼女だけど敵国の中将のお膝元に居たんだぞ。お前らもっと貪欲になれよ。

 そんな反応のせいで、私は敵国で何か洗脳をされたか薬で思考がぼんやりしてる系の、幼気な幼女と認定された。
 この時の同情めいた視線といったら。

 違うから! 私がフィオナ・ハインズだから!!

 抗議しても「そうやって洗脳されていたんだな。もう大丈夫だ」と言われるだけ。
 てめーら? 話を聴けー?
 きっとどこかで知らぬうちに例の魔法薬の解毒薬を飲まされているんだろうけど、私はその度に季節外れの風邪に感染したようになるだけ。その間ずっと幼女。

 だから私が決して怠惰の塊なわけじゃない。
 自他共認める、省エネのフィオナ、とどこぞの電化製品のように言われていたけど、流石に幼女になってまで省エネやってるほどおとぼけてない。
 自分なりにちょこちょこ調べていたけど、糸口どこか糸クズすらも見つからない。
 そこまで行ったらどうなるか。

 しゃーない。もう一度人生やり直す、ってことでいっか~。

 ――と、思うしかないだろう。

 防衛機関のデータをちょちょいとパクる私の技量を褒めて!? でも何も無かったの!!
 結局は諦めきれない私は、のんびりと幼女ライフを表面上楽しみながら、水面下ではハッキング作業をしていた。

 諦めたように見えただろうが、それは嘘である。
 また幼女時代からやり直すとかやめて欲しい。あの時に戻りたーい、とか思う時もあるけど、現実でそれが叶ってガッツポーズするほど私は自分の人生に期待してない。
 そもそも、情報部隊という軍の中でも一番安全なところに配属されるなんて、きっと何度人生やり直しても今回だけな気がするし。
 更にはブラッドリーさんという、仕事人間で頑固で堅物ではあるけど、見た目良し出世良し性格別に悪くない、男と付き合えるなんてもう無いと思う。否、絶対に無い。

 ひーこらと頑張っているところに、まさかの彼氏にフィアンセが出来てたって、こんな仕打ちある?

「まあ、あるよね」

 俺の運命の人ショックの翌日、私はブラッドリーさんに寝かしつけられたように装って、考えて考えた結果。
 普通に考えられる、という結論に至った。

 よく考えて?

 六年前の恋人が任務中に行方不明。
 
 敵国に抹消されたか、と思われていたがそんな形跡すらない。時を同じくして現れた幼女マリー。
 もしかしてこの幼女がフィオナでは!? とワンチャンありそうな一抹の希望さえも潰えた。

 これでブラッドリーさんが待っている方がおかしいよね。
 ブラッドリーさんは今回は敵国壊滅の件で、国からかなり讃えられた。
 階級も上がって、更に現場に出る事が無くなるほどのもの。それなのに彼は自分の足で動いて、部下に指示を出す。

 これほどの素晴らしい人間を放っておくとでも? 
それは手負いのジャッカルを、サバンナの中心に置いておくようなものだよ?
 つまりは淑女系女子も肉食系女子も黙ってないだろう。

 あーあ。私、残念だったな~。
 これ、もし戻れたとしても「すまない、俺にはもう心に決めた人が」とか言われるやつ~。
 あの真面目なブラッドリーさんだもん。当分申し訳なさそうな表情しそうだし。それ見て私が良心痛むやつだし。

 そうなったらハマーさんにヤケ酒を付き合ってもらう。そもそも私はまだ情報部隊として在籍してるのだろうか。
 ブラッドリーさんはきっと素敵な女性と結婚するんだろう。
 人の結婚式とか行ったことないから、どんな美味しい料理が出るか楽しみだ。きっとブラッドリーさんなら和風なんだろう。
 和食好きだったし。

 ――と、全く自分とは関係のない、彼の将来について思い馳せているのだが。

「マリー、次はどこに行きたいんだ?」

 なんでか私はブラッドリーさんと動物園に来ている。
 いやなんで。
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