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一章 ソフィアと魔王
蒸発と変敗
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「どうしよう。ゲラルドとケンカしてしまった」
起きてすぐにチエリに相談してみた。チエリは朝食を作っていた手を止めて、私の方を振り向くと呆れた眼差しを向けてくる。
「仲直りすればいいじゃないですか」
「仲直りしようにもゲラルドが部屋から出て来ない」
「一時間前に出掛けましたよ、ゲラルド殿は」
「なんだって」
え、なにそれ聞いてない。だって聞かれてませんでしたし。ゲラルドは私の協力者だよ? 協力者をなんでもかんでも管理しようとするんじゃありません。
チエリとの問答で分かったことがある。
もしかしなくてもゲラルドは結構怒っているのかもしれない。大変だ。こういう時はどうすればいいんだ。
「せっかく昨日まずいリモングラスを一緒に飲んだ仲なのに」
「あ、そういえば、ソフィア殿、昨日ちゃんと換気しないで寝ましたね? 二階に匂いが充満してたんですから!」
「なんで匂いって上にいくんだろう。物質の運動エネルギー、ってものが関係あるのかな」
「聞いてます? そんなんだからゲラルド殿に避けられるんですよ」
酷いぞチエリ。もうちょっと私を労ってくれたっていいじゃないか。
確かに私はムキになっちゃったかもしれない。でも分からないものは分からないし。
分かるよその気持ち、って言われたって他人が自分の気持ちを理解してくれるなんて、絶対にあり得ないんだ。
「ゲラルド、どこ行くって言ってた?」
「森へ行くと言ってましたよ」
「一人で何しに行ったんだろ。てかさ、チエリー、なんか昨日リモングラスを煮出してたんだけど、すごく不味くなっちゃったんだよね。なんで?」
「蓋をしてなかったとかじゃないですか?」
味噌汁が入ってる鍋に蓋をして見せてくれる。確かに蓋には水が沢山ついている。だけどそれは水分が飛んだだけだ。
「蓋をしてなかったら、水分がとんで足が濃くなるんじゃん? そうじゃなくて、なんか土と葉っぱみたいな味で……」
「風味が落ちた、とかですかね。熱を与えすぎると、味の質が落ちるものもありますので」
「へぇ。つまりは空気中に飛んじゃう、ってこと?」
「どうなんでしょう……。匂いも二階に飛んだりするので、関係あるんじゃないでしょうか」
科学というものに関して今の世の中では多くの文献が残っていない。残っていたとしても、今の世の中では考えられないほどの次元の文献ばかり。
だから当たり前のように記されている言葉だって、私にとっては未知のこと。
どうしてそこまで世界は科学を捨てて魔法に依存したのか。そんなにも魔法がいいものなのか。私には分からない。
きっと私よりも頭のいい賢者たちは気付いたはずだ。それなのに研究した文献もない。
少しでも残っていれば、文献では当たり前に出来ることでこんなに悩まなかっただろう。
「変敗でもしたのかな」
「へんぱい? なんですか、その言葉」
「変敗ってのは細菌、ってものが適温だったり適量の水のなかだと活発に動いて植物や生物を有害物質に変えたりすること。それで匂いや味とかも変わるからね」
「じゃあその細菌を無くさないといけないじゃないですか。……待ってください。その悪くなったものを昨日飲んだんですか? ちょっと何してんですか」
「例えば、の話だよ。ほら有害物質って言っても、傷んでたりするくらいのもあるみたいだし」
「いやそれ腐りかけじゃないですか!」
詰め寄るチエリに、まあまあと宥める。
もしそうなら、水を少なくすればいいのだろうか。いや、そうしたとなっても水温を上げることで良くないものが出来る。
……でもその原理で行くなら、味噌スープは危ないものになってしまう。そう簡単に悪くならないということだろう。リモングラスがあの時に有害物質になっていたとは考えづらい。
味噌スープが入った鍋の上の蓋を開けて、触って舐めてみる。ただの水だ。少しだけ味噌スープの味のようなものを感じる。ベタベタしていない。だから油は含まれてない。
「生きている者には人生があって一生がある」
「なんですか。突然」
「その変敗、ってものはその寿命を短くするようなものなのかな。どうしてわざわざ短くするんだろう」
「熱や水がないと肉は焼いて食べれませんし、味噌スープだって作れません。ハチミツだって砂糖だって溶けないじゃないですか」
そうだ。水温を上げないと溶けないものは存在する。きっと美味しい食べ物が出来るために細菌に寿命を削っているようなものだろうか。
「油ってさ蒸発するのかな。水みたいにどっかいくことあるのかな」
「水が蒸発してからの話じゃないですか?」
なるほど。そうか。水よりももっと高い温度で油は蒸発するのかもしれない。
「チエリ。火を起こす魔法具ってまだあったよね? それ貰ってもいい? あと料理してる時に出来た油も欲しい」
「……何をする気ですか」
目を細めてこちらを見つめるチエリに私は笑いかけた。
起きてすぐにチエリに相談してみた。チエリは朝食を作っていた手を止めて、私の方を振り向くと呆れた眼差しを向けてくる。
「仲直りすればいいじゃないですか」
「仲直りしようにもゲラルドが部屋から出て来ない」
「一時間前に出掛けましたよ、ゲラルド殿は」
「なんだって」
え、なにそれ聞いてない。だって聞かれてませんでしたし。ゲラルドは私の協力者だよ? 協力者をなんでもかんでも管理しようとするんじゃありません。
チエリとの問答で分かったことがある。
もしかしなくてもゲラルドは結構怒っているのかもしれない。大変だ。こういう時はどうすればいいんだ。
「せっかく昨日まずいリモングラスを一緒に飲んだ仲なのに」
「あ、そういえば、ソフィア殿、昨日ちゃんと換気しないで寝ましたね? 二階に匂いが充満してたんですから!」
「なんで匂いって上にいくんだろう。物質の運動エネルギー、ってものが関係あるのかな」
「聞いてます? そんなんだからゲラルド殿に避けられるんですよ」
酷いぞチエリ。もうちょっと私を労ってくれたっていいじゃないか。
確かに私はムキになっちゃったかもしれない。でも分からないものは分からないし。
分かるよその気持ち、って言われたって他人が自分の気持ちを理解してくれるなんて、絶対にあり得ないんだ。
「ゲラルド、どこ行くって言ってた?」
「森へ行くと言ってましたよ」
「一人で何しに行ったんだろ。てかさ、チエリー、なんか昨日リモングラスを煮出してたんだけど、すごく不味くなっちゃったんだよね。なんで?」
「蓋をしてなかったとかじゃないですか?」
味噌汁が入ってる鍋に蓋をして見せてくれる。確かに蓋には水が沢山ついている。だけどそれは水分が飛んだだけだ。
「蓋をしてなかったら、水分がとんで足が濃くなるんじゃん? そうじゃなくて、なんか土と葉っぱみたいな味で……」
「風味が落ちた、とかですかね。熱を与えすぎると、味の質が落ちるものもありますので」
「へぇ。つまりは空気中に飛んじゃう、ってこと?」
「どうなんでしょう……。匂いも二階に飛んだりするので、関係あるんじゃないでしょうか」
科学というものに関して今の世の中では多くの文献が残っていない。残っていたとしても、今の世の中では考えられないほどの次元の文献ばかり。
だから当たり前のように記されている言葉だって、私にとっては未知のこと。
どうしてそこまで世界は科学を捨てて魔法に依存したのか。そんなにも魔法がいいものなのか。私には分からない。
きっと私よりも頭のいい賢者たちは気付いたはずだ。それなのに研究した文献もない。
少しでも残っていれば、文献では当たり前に出来ることでこんなに悩まなかっただろう。
「変敗でもしたのかな」
「へんぱい? なんですか、その言葉」
「変敗ってのは細菌、ってものが適温だったり適量の水のなかだと活発に動いて植物や生物を有害物質に変えたりすること。それで匂いや味とかも変わるからね」
「じゃあその細菌を無くさないといけないじゃないですか。……待ってください。その悪くなったものを昨日飲んだんですか? ちょっと何してんですか」
「例えば、の話だよ。ほら有害物質って言っても、傷んでたりするくらいのもあるみたいだし」
「いやそれ腐りかけじゃないですか!」
詰め寄るチエリに、まあまあと宥める。
もしそうなら、水を少なくすればいいのだろうか。いや、そうしたとなっても水温を上げることで良くないものが出来る。
……でもその原理で行くなら、味噌スープは危ないものになってしまう。そう簡単に悪くならないということだろう。リモングラスがあの時に有害物質になっていたとは考えづらい。
味噌スープが入った鍋の上の蓋を開けて、触って舐めてみる。ただの水だ。少しだけ味噌スープの味のようなものを感じる。ベタベタしていない。だから油は含まれてない。
「生きている者には人生があって一生がある」
「なんですか。突然」
「その変敗、ってものはその寿命を短くするようなものなのかな。どうしてわざわざ短くするんだろう」
「熱や水がないと肉は焼いて食べれませんし、味噌スープだって作れません。ハチミツだって砂糖だって溶けないじゃないですか」
そうだ。水温を上げないと溶けないものは存在する。きっと美味しい食べ物が出来るために細菌に寿命を削っているようなものだろうか。
「油ってさ蒸発するのかな。水みたいにどっかいくことあるのかな」
「水が蒸発してからの話じゃないですか?」
なるほど。そうか。水よりももっと高い温度で油は蒸発するのかもしれない。
「チエリ。火を起こす魔法具ってまだあったよね? それ貰ってもいい? あと料理してる時に出来た油も欲しい」
「……何をする気ですか」
目を細めてこちらを見つめるチエリに私は笑いかけた。
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