25 / 76
第二章 動く五月
25.デートバイデイライト その3
しおりを挟む
太らないかな、なんて心配しながらも、先輩にとってその弁当箱の大きさは魅力的なものだったみたいだ。真剣な眼差しで考え込んでいる。
「どうしよう……」
「やっぱ、カロリーが気になりますか?」
「うん、いきなり食べる量を増やしたら、体重も増えちゃいそうだし」
こういう悩みは、女の子らしくていいなぁ。苦悩している先輩には申し訳ないけれど、俺の心はほっこりと温まってしまった。
そのフワフワしたテンションのまま、思いついたことを口にする。
「だったら、野菜系のおかずをたくさん詰めてきますよ。ウチはご飯も麦飯なんで、ヘルシーですし。昼食にたくさん食べれば、お菓子を食べなくて済むから、カロリー的にはトントンになるんじゃないですか?」
俺の提案を聞いた先輩は、感心したように目をぱちくりさせる。
「……そっか、そうだよね。むしろ、お菓子食べるよりもずっと健康にいいよね!」
「そうですよ。糖質も制限できて、良いこと尽くめだと思いますよ」
俺の言葉に背中を押されたらしく、先輩の顔いっぱいに笑みが広がる。
「うん、じゃあこのお弁当箱にしようかな!」
「決まりですね」
「ねぇゴウくん、どっちの色がいいと思う?」
「えっ!」
先輩の笑顔に見とれていた俺は面食らった。
よくよく売り場を見てみれば、俺が最初に目を留めた青色の他に、ピンク色のものも陳列されていた。ううむ、これはまた難しい質問をぶつけられてしまったぞ。
ぶっちゃけ、色なんてどっちでもいい。大切なのは、俺が作る中身の方だろう。
でも、その思考をそのまま先輩にぶつけるのは、あまりにも失礼だ。いや、どんな女子に対してだって、『どっちでもいい』はNGだって、理解している。
俺は最初、青色しか認識してなかったんだから、そっちでいいだろう、と思った。
いや、でも、ちょっと待てよ……。
俺は、想像を巡らせた。頭の中に、弁当を食べる先輩の姿を作り出す。
俺の作ったおかずを頬張りながら、満足そうに笑う先輩。
その手元にあるのは、青とピンク、どちらの弁当箱が相応しいだろう。どちらの色が似合っているだろうか。
ボーイッシュで大人っぽい雰囲気の先輩には、青が似合う?
……いや、ピンクかな。
先輩の第一印象は『美人』だったけれど、先輩のいろいろな表情を知るたびに、俺は先輩を『かわいい』と思うようになっていた。
だから、かわいい先輩には、女の子らしいピンクの弁当箱が似合う……と思う。
「えっと、ピンクがいいんじゃないですか」
「なんで?」
なんで、ときたか。
「……かわいいからです」
それは先輩のことだけれど、この流れなら、ピンクという色がかわいい、という意味に取ってもらえるだろう。
でも、照れて身体が熱くなった。よく考えたら、女子に対して『かわいい』なんて言うのは生まれて初めてじゃないか? 俺の初めては先輩に捧げられた……!
おバカなことを考えながら脳内で身悶えする俺に対し、先輩はなんでもない様子で「ふぅん、そっか」とつぶやいて、色違いの弁当箱を交互に見つめる。
ああ、果たして先輩は、俺の大一番の選択を受け入れてくれるだろうか。ピンクなんて趣味じゃない、って言うだろうか。
「ねぇゴウくん」
先輩の肘が、俺を小突く。つんつん、つん、となんだかリズミカルに。
戸惑いつつ先輩の表情を窺うと、ニンマリと笑っていた。
「迷ってる女の子は、男の子からのそういう言葉に弱いんだよ」
「へっ、あっはい、すみません?!」
「もう、なんで謝るの」
くちびるを尖らせた先輩は、ピンクの弁当箱をさっと手に取ると、それを俺に掲げてみせる。
「じゃあ買ってくるね。通路の向こうで待ってて」
「あ……はい」
俺は言われるがままに店を出て、通行人の邪魔にならないよう、壁にもたれかかった。
なんかよくわからないけれど、先輩は俺の『かわいいから』という言葉を聞いて、ピンクを選択したってことでいいんだろうか。
先輩は、大きさから色から、すべてを俺が選んだ弁当箱を使ってくれる、ってことだよな。
……うん、それはとても嬉しい。ますます作り甲斐があるってものだ。ああ、月曜日、先輩は俺にどんな笑顔を見せてくれるだろうか。
やがて、ショップの袋を下げた先輩が戻ってきた。中身はただの弁当箱だけれど、『最高の獲物が取れた!』みたいなホクホク顔をしている。そんな表情見せられたら、俺も笑みがこらえきれない。
互いに微笑み合う俺たちは、傍から見たら、仲睦まじいカップルそのものだろう。通行人の皆様には、存分にそう思ってもらわなくては。
嬉しいけれど、ちょっと心残りなことがある。
本当は、俺が弁当箱の代金を払いたかった。先輩にプレゼントしてあげたかった。
でも俺たちは、まだそんな仲じゃない。俺には、先輩になにかをプレゼントする権利はないんだ。
誕生日とかだったら別だろうけど、なんでもない日に、二千円近いものを贈るなんて、先輩は絶対に受け取ってくれないと思う。
今の俺にできるのは、先輩のため、腕によりをかけて弁当を作ることだけだ。
「どうしよう……」
「やっぱ、カロリーが気になりますか?」
「うん、いきなり食べる量を増やしたら、体重も増えちゃいそうだし」
こういう悩みは、女の子らしくていいなぁ。苦悩している先輩には申し訳ないけれど、俺の心はほっこりと温まってしまった。
そのフワフワしたテンションのまま、思いついたことを口にする。
「だったら、野菜系のおかずをたくさん詰めてきますよ。ウチはご飯も麦飯なんで、ヘルシーですし。昼食にたくさん食べれば、お菓子を食べなくて済むから、カロリー的にはトントンになるんじゃないですか?」
俺の提案を聞いた先輩は、感心したように目をぱちくりさせる。
「……そっか、そうだよね。むしろ、お菓子食べるよりもずっと健康にいいよね!」
「そうですよ。糖質も制限できて、良いこと尽くめだと思いますよ」
俺の言葉に背中を押されたらしく、先輩の顔いっぱいに笑みが広がる。
「うん、じゃあこのお弁当箱にしようかな!」
「決まりですね」
「ねぇゴウくん、どっちの色がいいと思う?」
「えっ!」
先輩の笑顔に見とれていた俺は面食らった。
よくよく売り場を見てみれば、俺が最初に目を留めた青色の他に、ピンク色のものも陳列されていた。ううむ、これはまた難しい質問をぶつけられてしまったぞ。
ぶっちゃけ、色なんてどっちでもいい。大切なのは、俺が作る中身の方だろう。
でも、その思考をそのまま先輩にぶつけるのは、あまりにも失礼だ。いや、どんな女子に対してだって、『どっちでもいい』はNGだって、理解している。
俺は最初、青色しか認識してなかったんだから、そっちでいいだろう、と思った。
いや、でも、ちょっと待てよ……。
俺は、想像を巡らせた。頭の中に、弁当を食べる先輩の姿を作り出す。
俺の作ったおかずを頬張りながら、満足そうに笑う先輩。
その手元にあるのは、青とピンク、どちらの弁当箱が相応しいだろう。どちらの色が似合っているだろうか。
ボーイッシュで大人っぽい雰囲気の先輩には、青が似合う?
……いや、ピンクかな。
先輩の第一印象は『美人』だったけれど、先輩のいろいろな表情を知るたびに、俺は先輩を『かわいい』と思うようになっていた。
だから、かわいい先輩には、女の子らしいピンクの弁当箱が似合う……と思う。
「えっと、ピンクがいいんじゃないですか」
「なんで?」
なんで、ときたか。
「……かわいいからです」
それは先輩のことだけれど、この流れなら、ピンクという色がかわいい、という意味に取ってもらえるだろう。
でも、照れて身体が熱くなった。よく考えたら、女子に対して『かわいい』なんて言うのは生まれて初めてじゃないか? 俺の初めては先輩に捧げられた……!
おバカなことを考えながら脳内で身悶えする俺に対し、先輩はなんでもない様子で「ふぅん、そっか」とつぶやいて、色違いの弁当箱を交互に見つめる。
ああ、果たして先輩は、俺の大一番の選択を受け入れてくれるだろうか。ピンクなんて趣味じゃない、って言うだろうか。
「ねぇゴウくん」
先輩の肘が、俺を小突く。つんつん、つん、となんだかリズミカルに。
戸惑いつつ先輩の表情を窺うと、ニンマリと笑っていた。
「迷ってる女の子は、男の子からのそういう言葉に弱いんだよ」
「へっ、あっはい、すみません?!」
「もう、なんで謝るの」
くちびるを尖らせた先輩は、ピンクの弁当箱をさっと手に取ると、それを俺に掲げてみせる。
「じゃあ買ってくるね。通路の向こうで待ってて」
「あ……はい」
俺は言われるがままに店を出て、通行人の邪魔にならないよう、壁にもたれかかった。
なんかよくわからないけれど、先輩は俺の『かわいいから』という言葉を聞いて、ピンクを選択したってことでいいんだろうか。
先輩は、大きさから色から、すべてを俺が選んだ弁当箱を使ってくれる、ってことだよな。
……うん、それはとても嬉しい。ますます作り甲斐があるってものだ。ああ、月曜日、先輩は俺にどんな笑顔を見せてくれるだろうか。
やがて、ショップの袋を下げた先輩が戻ってきた。中身はただの弁当箱だけれど、『最高の獲物が取れた!』みたいなホクホク顔をしている。そんな表情見せられたら、俺も笑みがこらえきれない。
互いに微笑み合う俺たちは、傍から見たら、仲睦まじいカップルそのものだろう。通行人の皆様には、存分にそう思ってもらわなくては。
嬉しいけれど、ちょっと心残りなことがある。
本当は、俺が弁当箱の代金を払いたかった。先輩にプレゼントしてあげたかった。
でも俺たちは、まだそんな仲じゃない。俺には、先輩になにかをプレゼントする権利はないんだ。
誕生日とかだったら別だろうけど、なんでもない日に、二千円近いものを贈るなんて、先輩は絶対に受け取ってくれないと思う。
今の俺にできるのは、先輩のため、腕によりをかけて弁当を作ることだけだ。
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる