美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M

文字の大きさ
48 / 76
第三章 もっと動く六月

48.GO’S キッチン

しおりを挟む
「まず、小松菜の煮浸しを作ろうと思うんですけど……」

 小松菜を手にそう切り出すと、先輩は先輩は恥ずかしそうに言った。

「ねぇゴウくん……そもそも『ニビタシ』ってなに……?」
「あっ、その、なんていうか……煮物です。葉物野菜やナスとかをサッと煮る感じのやつです」
「なるほど……?」

 先輩は不可解そうに眉根を寄せた。
 煮びたしはメジャーな和食ではあるけれど、それゆえにレストランなんかではなかなかお目にかかれない。もしかすると先輩は、これまで一度も食べたことないかもしれない。

「まぁ、百聞は一見にしかずということで。それで、煮汁なんですけど、めんつゆを使うバージョンでいいですか?」
「めんつゆを使わないとどうなるの?」
「醤油とかみりん、酒、砂糖とかを使います。うちには全部揃ってますけど、たまにしか料理しないのなら、めんつゆだけを用意しておけば事足りますよ」

 とは言ったものの、開封しためんつゆは消費期限が短い。反対に、砂糖は長期保存が可能だ。
 もし週に一回程度しか料理しないのなら、めんつゆだとかえって勿体もったいないかもしれない。
 まぁ、このあたりはおいおい説明していくか。

 先輩は少しの間むーんと悩んでいたけれど、「めんつゆバージョンでお願いしま~す」とかわいい返事をくれた。

 ということで、俺は先輩に見守られながら『厚揚げと小松菜の煮びたし(めんつゆVer.)』を作った。
 火を止めたあとは、冷まして味を含ませる。米が炊けるころには、厚揚げに味が染みて、ご飯のいいお供になるはずだ。

 個人的な見解だけれど、具材を切って弱火で煮るだけの煮びたしは、すごく初心者向けだと思う。煮崩れを恐れなくていいし、最後に煮詰める必要もない。
 煮物を何回か作って、ある程度火の使い方に慣れてから、炒め物を伝授しようかなと考えている。

 火加減に慣れるために、ホットケーキを一緒に作ってみるものいいかもな。先輩、すごく喜びそう。
 まぁ、機会はまだまだあるんだから、いろいろ考えておこう。

「ところで先輩、味噌汁の具に関して、リクエストありますか?」
「ん、それはゴウくんにお任せするけど……そういえば、お味噌汁の具って、買ってなくない?」
「いえ、それはですね……」

 俺は得意顔で冷凍庫の引き出しを開ける。一段目にぎっしり詰まっているのは、あらかじめカットして、小分けにして、ラップに包んである野菜の群れ。キノコ類や油揚げもある。

「わ、すごい! いろいろある!」

 先輩が目を丸くして、感嘆の声をあげた。

「余った野菜は、こうやって冷凍しておくと便利ですよ。もちろん冷凍に適さないものもありますけど、迷ったらネットで検索すればだいたい解決します」
「そっかぁ~、なるほどね。うんうん、これなら食材を無駄にしなくて済むね!」

 そう俺を見つめる先輩の眼差しには、尊敬の念が満ちあふれていた。キラッキラの瞳と笑顔が俺のハートを勢いよく打ち抜く。
 きっと俺の心臓は穴だらけだ。先輩と出会ってたった数か月で、数え切れないほどの銃撃を受けてしまったから。

「ええと、あとはお湯を沸かして、好きな具材をぶち込んで、味噌を溶かすだけで味噌汁が完成します。
 あ、これ以外にも、豆腐とネギ、わかめ、あとジャガイモと玉ねぎがあるんで、好きな具材を言ってもらえれば」

 追加で説明すると、先輩の目に困惑の色が現れた。

「お豆腐とわかめ以外、よくわかんない……。ゴウくんのオススメでお願い……」
「オススメは、キノコ類ですかね。冷凍することで旨味が増すとかなんとか。俺はマイタケが好きです」
「マイタケって、天ぷらしか食べたことないかも……」

 先輩が首をかしげる。なんとなくそんな気がしていたから、あえてマイタケをチョイスしてみたのだ。

「天ぷらもすげぇいいですね。でも、カレーとかすき焼きにも合いますよ」
「え……想像できない。でも、ゴウくんが言うなら間違いないよね!」

 この全幅の信頼を寄せてくれている感、本当に嬉しい。

 結局、マイタケと豆腐と玉ねぎの味噌汁にすることにした。
 鍋に水を入れたら、真っ先にマイタケを放り込む。水から煮た方が旨味が出るらしいのだ。
 沸騰するまでの間に玉ねぎと豆腐を刻む。沸騰したら玉ねぎを、最後に豆腐を入れる。

 味噌はだし入りのものを使っている。ちゃんとだしを取るとウマいけれど、面倒臭いしコスパが悪いからな。だしを取ったあとの煮干しを、具として食べるのも好きだけれど。

「我が家のモットーは、『味噌汁はたくさんの野菜をお手軽に取る手段』です。だから過度に凝らず、かつ、好きな野菜を好きなだけ入れて作ればいい、ってのがばあちゃんからの教えです」
「そうなんだぁ……」

 俺の言葉に、先輩がとっても真剣な顔でうなずく。最後に、ニコッと笑った。

「『過度に凝らず』っていい言葉だね。料理初心者としては安心するよ」
「そうですね」

 俺も口元を緩める。同時に、ばあちゃんへの感謝の気持ちがぶわっと湧いてきた。近々、顔を見せに行こうっと。

 次に着手したのは、焼きさけ
 俺流の鮭の焼き方を目の当たりにした先輩は、再び目を真ん丸にした。

 我が家では、魚を焼く際にグリルを使用しない。フライパンに専用のホイルシートを敷いて、そこに切り身を乗せ、蓋をして、弱火でじっくりと焼くだけ。
 ホイルシートのおかげで、よほど長時間放置しなければ、焦がしてしまうこともない。
 途中で一回ひっくり返すから、完全放置というわけにもいかないけれど。

「こんな魔法みたいなシートがあったなんて! これなら、焼き魚が誰でも簡単にできるね!」
「オムレツとかもきれいに作れますよ。今度作ってみましょ」
「うん!」

 焼き上がりを待つまでに、先輩のリクエストである、あま~い卵焼きを作ることにする。
 先輩がぜひやりたいと言うので、卵を割るのをお任せした。

 卵を手に、「よぉ~し……!」と意気込む先輩を窺い見ると、ギンギンにキマった目をしていた。
 たとえるならば、世紀の大実験を行う科学者のような……『失敗は絶対に許されない!』みたいな、ひどく思いつめた表情だ。
 俺だって、生まれて初めて卵を割るときはちょっと緊張したけれど、さすがにここまでじゃ……。

 ハラハラと見守る俺の前で、三個の卵は無事にボウルへと中身をさらした。殻が混入することもなかった。

「えへへ、うまくいった……。この前、上手な割り方をテレビで見たの」

 と、先輩は疲労困憊したかのように大きな息を吐く。

 卵を割る程度のことで、ここまでの緊張感を漂わせなければならないなんて……。包丁を握らせたらもっと危なっかしいかもしれない。
 次回の料理レッスンが、すこぶる不安になってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...