落花流水、掬うは散華 ―閑話集―

ゆーちゃ

文字の大きさ
6 / 15

―番外編― 逆タイムスリップ②

しおりを挟む
 浅葱色の羽織に身を包み、現代の街を闊歩する。
 ……どこからどうみてもコスプレをした集団にしか見えないけれど、団体ということも相まって、必要以上に目立って仕方がない。

 行き交う人達の、遠くから向けられるちらちらとした視線が正直痛い。
 藤堂さんも気がついたのか、後ろから私の袖を引っ張り訊いてきた。

「ねぇ、春。ここはアンタの故郷なんでしょ? ここの人達もオレらこと知ってるんだね」

 私の“故郷”に間違いはないけれど、建物の材質とか景観とか……江戸時代のそれとは全く違うのに、そこは突っ込まないのだろうか……。
 山崎さんがぽろっとこぼした一言を、すんなり受け入れた藤堂さんに正直びっくりするけれど、どうやら他のみんなも似たような感じだった。

 武士はいつ如何なる時も決して動じない、とか……そういう精神なのか?

「ここでも、壬生狼《みぶろ》なんて言われてそうな雰囲気だな」

 そう苦笑するのは井上さんだった。
 確かに、普段巡察していても人の方が捌けていくもんね……。けれど、それとこれとはちょっと……いや、かなり意味合いが違うかもしれないけれど。



 しばらく歩いていたら、スマホを手にした二人組の女性に声をかけられた。

「新選組のコスプレですよね? 私達も新選組が好きなんです! 写真撮らせて下さいっ!」
「えっと……すみません、写真はちょっと……」

 さすがにそれはマズイような気がして断りを入れるも、一人の女性が頬を赤らめながら土方さんを指差した。

「わぁ、土方歳三!? すごーい、本物みたいにカッコいい!」

 みたい……というか、本物なのだけれどね……。

「あっ! こっちは近藤勇!? あはは、似てる似てる~!」

 似てるも何も、本人なんだってば……。

 随分とテンションの高い二人に気圧されて、局長、副長が揃って言葉を失う中、沖田さんが近藤さんの名前を口にした女性を無言で睨みつけながら、刀の柄に手をかけていることに気がついた。

「ちょっ、お、沖田さん!?」
「土方さんはどうでもいいですけど、近藤さんまで呼び捨てにするなんて……これ以上の無礼を働くようなら斬ってもいいですか?」
「いや、ダメですからっ!」

 抜刀、ダメ、絶対!!
 どうどうと沖田さんを宥めていると、その女性が沖田さんの前へと一歩歩み寄った。

「へぇ~。アナタが沖田総司役なんだ~? アタシの推しも総司だけど、総司はこう、もっと愛嬌があって人懐っこいイメージだよ?」

 うん、だからね、あなたの推しだというその沖田総司は、目の前にいるんだけれどね……。

 普段は確かにそんなイメージだけれど……ちらりと見やった今の沖田さんは、人懐っこいとはほど遠い、冷たい視線で女性を見つめていた。
 うん、嫌な予感しかしない。

「あのっ、すみません! 私達はこの辺でっ!」

 そう言い置いて、再び沖田さんの背中を押しながらみんなで逃げるようにその場を後にする。
 残念そうにする女性たちの声も聞こえなくなった頃、井上さんに声をかけられた。

「春、良かったのか? あの女子《おなご》達は何か用があったんだろう?」
「大丈夫です。写真が撮りたかっただけみたいなので」
「しゃしん?」
「あー、えーっと……。ふぉ……ふぉと、がら……?」

 写真を指す古い言葉があったような気がして、首を傾げつつ記憶の片隅に浮かんだ言葉を口にしてみれば、どこか目をきらきらと輝かせた近藤さんが、閃いた! とばかりに声を上げた。

「ほとがらか!?」
「あ、そう、それです。ほとがらです」
「そうか。まぁ、ほとがらは時間がかかるからな。先を急がねばならん今は無理だろう」
「いえ、スマホだから撮影自体は一瞬なんですけど……」
「すまほ?」
「さっきの人達が手に持っていた、これくらいの小さなやつです。あれですぐ撮れるんです」

 手で大きさを示して見せるも、近藤さんは信じていないらしく、微笑むように大きな笑窪を作った。

「いや。写真鏡はあんなに小さくはないぞ?」
「しゃしんきょう?」
「んむ。これくらいの箱でな、暫く待てばその姿形を写し出すという不思議な箱だ」

 これくらい……と、両手でその箱の大きさを形作ってくれる。どうやら写真機のことっぽいけれど、室内であるならまだしも持ち運ぶには不便な大きさだ。
 そう考えると、撮影がメインではないのに、あの大きさで色々なことが出来てしまうスマホって、本当に便利だなぁ……としみじみ思う。

 スマホの機能を語って反応を見てみたい気もするけれど……色々とややこしくなりそうなので、ひとまずあれが写真鏡なのだと説明した。
 ほんの一瞬で撮れるのだとも教えれば、もはや少年のような顔で驚いていて、横で一緒になって話を聞いていた井上さんまで興奮気味に声をあげた。

「春のじだ……いや、故郷では、あんな小さな物で撮れるのか!?」

 もう、“故郷”ではなく“時代”と言ってしまっても、みんな大して驚かないような気がするけれど。
 みんな順応性が高過ぎるし!

 そんなことを思っていたら、突然、山崎さんが目の前に立ち塞がり、私の手を取ったかと思えば自らの両手で労るように優しく包み込んだ。
 驚く私とは反対に、山崎さんはどこかほっとしたような表情で私を見下ろしている。

「写真鏡は魂を吸い取るという噂を聞いたことがあります。春さんが無事で本当によかった」

 さすがは新選組が誇る優秀な監察方。仕事柄、色々な噂を耳にするのかもしれない。
 でもね、誰もが手軽に写真を撮れるこの時代、それが事実だったら現代人とっくに滅亡している。
 今頃、世界中が人類滅亡の危機で大騒ぎだよ!

 ところで、私の手はいつ解放してもらえるのだろうか。
 や、山崎さーん!

 擽ったいけれど、曇りないその笑顔に振りほどくことも出来ずにいると、土方さんの怒気を含む声とともに私の腕をめがけて手刀が飛んできた。

「おい! 早く行くんじゃねぇのかよ」
「痛っ! 何するんですか!」
「あー、悪ぃ。手元ガ狂ッタ」

 なんで棒読み! わざとか? わざとなのかっ!?
 土方さんを思いきり睨み付けるも、その肩越しに公園までの距離を記した看板が見えた。

 よし、公園へ行こう!

 目的地も定まったので歩みを再開する。
 看板の指示通りに角を曲がれば、さっきまでの騒がしい大通りとは違い、片側一車線でガードレールもなく、人も車もまばらで急に落ち着いた雰囲気になった。

 目立ちたくないのでこれは好都合、などと思っていたら、背後から来た車が軽くクラクションを鳴らして走り抜けていった。
 振り返れば、車道側に大きくはみ出していた永倉さんが原因だったらしい。

 というか……一ついいかな?
 全員揃って手が左の腰にあてがわれているのだけれど、一体何をする気だったんだ?

「永倉さん。危ないからもっと端に寄って下さい。足元の白い線から外に出たらダメですよ」
「何でだ? 道幅はこんなに広いんだから、もっとゆったりすればいいだろう。ところで、あの音は何だったんだ?」
「音は……気にしなくていいです。とにかく、決まりだからダメです!」

 どうも納得がいっていないような顔なので、例えを出して説明することにした。
 永倉さんが車に轢かれては大変だからね!

「局中法度だってちゃんと守らないとダメですよね? それと一緒です。歩行者はこの白線の内側を歩く。それがここの規則なんです」

 今度は納得してくれたみたいで、改めて歩みを再開すれば全員きちんと白線の内側を歩いてくれた。
 これなら安心して公園へ向かうことが出来る……はずだった。

 気がつけば、どういうわけか誰もついて来てはいなかった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...