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―番外編― 逆タイムスリップ③
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「えっ、どこ行ったの!?」
慌てて探せば、さすがは浅葱色の目立つ集団、すぐに見つかった。
後方で何やら立ち止まっているけれど、ちゃんと白線の内側に留まっていて、偉い偉い。
でもね……。
彼らの目の前には白線をまたいで駐輪された自転車が一台。
まさか、ね?
待てど呼べど来そうになく、仕方なく来た道を戻れば案の定土方さんが声を荒げた。
「お前っ、俺の目の前で堂々と規則を破るんじゃねぇ! 今すぐ切腹しろっ!」
やっぱり、規則を優先させてしまったせいで、避けて通るという考えが欠如してしまったのか? そうなのか!?
呆れを通り越し笑いを堪えていると、山南さんが悲しそうにこちらを見た。
「琴月君。ここの規則では、白線の内側を歩かなければいけないのだろう?」
「はい。それは、まぁ、そうなんですけど……」
「その規則は、局中法度と同じとも言っていたよ? つまり、順守しなければ切腹ということに――」
「ないです。はい」
「では……より重い斬首――」
「もっとないですからっ!」
白線を越えるたびにいちいち死んでいたら、命がいくつあっても足りない。
私は今まで、何回死んだことになるんだ?
今回のように、避けて通るためにやむを得ず白線を越えなければならない時もあるだろう。
“規則だから守らなければいけない”という部分を強調したかっただけなのに、どうして“切腹”の方に目を向けてしまうのだろうか。
ええい、局中法度と同じと言った私がいけなかったさ!
ひとまず切腹はないと安心させて、やむを得ず白線を出る時は前後をよく確認してから! と説明する。
何だか幼い子供を相手にしている気分になってくるけれど、目の前にいるのはいい大人ばかりで頭が混乱する……。
それでも何とか伝わったようで一息つけば、たった一台の自転車を避けるのに、みんな面白いくらいに首をキョロキョロとさせているのだった。
ようやく公園への歩みを再開すれば、数歩進めた先で藤堂さんが再び私の袖を引いてきた。
ああ……見えているのに公園がもの凄く遠い……。
「ねぇ、春。あの白い鳥は何? なんか変じゃない?」
藤堂さん、自分で“白い鳥”と答えを出したなら、それ以上は気にしちゃいけないと思うの。
すぐに返事をしない私に代わり、今回も永倉さんが答えてくれる。
「平助。あれはな……きっと、あれだ。……鳥だ」
うん。藤堂さんも白い鳥と言っていたもんね。
空に鳥が飛んでいたとしても、別に不思議じゃない。
何となくオチは見えているけれど、藤堂さんの視線を辿るように空を見上げれば、そこには一羽の白い鳥が飛んでいた。
正確には、“一羽”ではなく“一機”だけれど。
「あれはですね、飛行機と言って駕籠みた……」
ちょっと待って。
駕籠みたいに移動するための乗り物だなんて口にしたら、再び駕籠舁《かごかき》がどうのという話にならないか?
文明の利器は発達したけれど、いくら鍛えた駕籠舁といえど、その身一つでは空を飛べないぞ!?
そもそも、駕籠ではないのだけれど。
「春?」
続きを求める藤堂さんの視線に耐えかねて、仕方なく口を開いた。
「……白い鳥、ですよ」
べ、別に説明が面倒くさくなったとかそんなんじゃないんだからねっ!
早く公園へ行くことを優先した結果だし!
おかげで、信号を一つ渡れば目の前は公園ということろまでやって来た。
走行中だった車が停車し歩行者用の信号が青に変わる。すかさず歩き出そうとするも後ろから腕を捕まれて、危うく転びそうになった。
「は、原田さん? どうかしましたか?」
「あの駕籠……鉄の駕籠か? ありゃ、おかしくねえか?」
ええ、まぁ、おかしいところだらけかと……。
そもそもが駕籠ではないわけで。
「駕籠舁《かごかき》いなくねえか?」
だって、駕籠ではないわけで……。
ちゃんと訂正しておくべきだったと後悔するも、今さら説明するのは骨が折れそうな気がする。
悩んでいたら、またしても代わりに答えてくれたのは永倉さんだった。
「厠にでも行ってるんじゃないか?」
「なるどな。そうかもしれねえな」
どうやら納得したらしい。
厠に行っているらしい駕籠舁が戻ることなく発車しては、再び質問されかねないので慌てて渡りきった。
公園についたはいいけれど、何からどう説明すればいいのだろうか……と考えていれば、抗えないほどの睡魔に襲われた。
ここで眠るわけにはいかないと思うものの、急激に視界は霞み、全ての音が遠退いていく。
沈み行く意識の中ゆっくりと膝をつけば、頬を撫でる芝生が擽ったいと思ったのを最後に、深い深い眠りに落ちた。
心地よい睡眠を邪魔してくれたのは、若干怒気をも含む随分と聞きなれた声だった。
それらは覚醒するにつれどんどん膨張し、たまらず瞼をこじ開けた。
「いい加減、起きろっ!」
「……あれ、すみません。私寝ちゃったみた……って、あれ!?」
さっきまで公園にいたはずなのに、幕末の新選組屯所、いつもの部屋だった。
「お前も寝てたのか?」
「……ええと、たぶん……」
あれは全部夢だったのか?
って、お前……も?
訊けば、どうやら土方さんもたまりにたまった書状を捌いているうちに、居眠りをしていたらしい。
珍しいこともあるもんだ。
「夢を見てた。お前も出てきて……おかしかった」
「勝手に登場させたうえに、私がおかしいみたいな言い方はやめて下さい。ちなみに、どんな夢だったんですか?」
「……んー、覚えてねぇな」
「……はい?」
覚えていないのに、人をおかしい呼ばわりするとかどういうこと!
思わず反論したくなるのをぐっと堪えて、質問を投げかけてみる。
「未来に行く夢……じゃないですか?」
覚えてねぇ、と一蹴されるかと思いきや、土方さんは少しだけ真面目に考える素振りをみせた。
けれど……。
「やっぱり覚えてねぇな。夢なんざすぐに忘れちまうもんだろう」
何だかよくわからないけれど、やたら乾いた喉を潤しに行くことにした。
結局、あれは何だったのだろうか。
やっぱり、全部夢だったのか?
私の秘密を知っている土方さんでさえ、寝ていただけで何も覚えていないと言うし。
静かな廊下を歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかってしまった。
「わっ、す、すみません!」
「考え事をしていたようだが、大丈夫か?」
斎藤さんだった。
「ついさっき見た、おかしな夢のことを考えていて……」
再びすみません、と謝りその場を離れようとすれば、おもむろに伸びてきた両手が私の頬を包み、上向かせると同時に至近距離で顔を覗き込まれた。
なっ!? 近い! 近過ぎるっ!
「さっ、さ、斎藤さんっ!?」
「異国の着物に身を包み、色とりどりの髪色をした者が多かった」
「へ? な、何の話ですか?」
それよりも、この近さは一体何っ!?
ちょっとした衝撃で、唇が触れ合ってしまいそうで動くに動けないのだけれどっ!
ま、まさか……!?
いや、いくら斎藤さんでも、からかうだけでそこまではしないはず!
「異人は瞳の色が青いと聞いたことがある」
「は、はい? それより、あのっ」
近過ぎるってば!!
一人あたふたするも、斎藤さんの唇がいつもの三日月を作ったかと思えば、何事もなかったように解放された。
「俺も面白い夢を見てな。お前の瞳も確認してみたくなっただけだ」
そう言うと、僅かに肩を揺らしながら去って行く斎藤さんが、思い出したように首だけを振り向かせながら言い放つ。
「何か違う想像でもしたか?」
「なっ! さ、斎藤さんっ!!」
やっぱりまたからかわれていた!
去って行くその背中に向けて文句を言うも、振り返りもせず、くくっと笑われただけだった。
いつもながら、何なんだー!
さっさと台所へ行きお茶を淹れると、ほっと一息ついた。
……ん、あれ?
「そういえば、どんな夢だったっけ?」
随分とおかしな夢だったような気がするけれど……。
「ま、いっか」
そうして、再び湯飲みに口をつけるのだった。
* * * * *
ここまでお読みくださりありがとうございます!
しつこいようですが、本編・閑話集とは一切関係ありません。
他サイトでですが、本編の連載が一周年を迎え、お遊びで書き公開したものです!
慌てて探せば、さすがは浅葱色の目立つ集団、すぐに見つかった。
後方で何やら立ち止まっているけれど、ちゃんと白線の内側に留まっていて、偉い偉い。
でもね……。
彼らの目の前には白線をまたいで駐輪された自転車が一台。
まさか、ね?
待てど呼べど来そうになく、仕方なく来た道を戻れば案の定土方さんが声を荒げた。
「お前っ、俺の目の前で堂々と規則を破るんじゃねぇ! 今すぐ切腹しろっ!」
やっぱり、規則を優先させてしまったせいで、避けて通るという考えが欠如してしまったのか? そうなのか!?
呆れを通り越し笑いを堪えていると、山南さんが悲しそうにこちらを見た。
「琴月君。ここの規則では、白線の内側を歩かなければいけないのだろう?」
「はい。それは、まぁ、そうなんですけど……」
「その規則は、局中法度と同じとも言っていたよ? つまり、順守しなければ切腹ということに――」
「ないです。はい」
「では……より重い斬首――」
「もっとないですからっ!」
白線を越えるたびにいちいち死んでいたら、命がいくつあっても足りない。
私は今まで、何回死んだことになるんだ?
今回のように、避けて通るためにやむを得ず白線を越えなければならない時もあるだろう。
“規則だから守らなければいけない”という部分を強調したかっただけなのに、どうして“切腹”の方に目を向けてしまうのだろうか。
ええい、局中法度と同じと言った私がいけなかったさ!
ひとまず切腹はないと安心させて、やむを得ず白線を出る時は前後をよく確認してから! と説明する。
何だか幼い子供を相手にしている気分になってくるけれど、目の前にいるのはいい大人ばかりで頭が混乱する……。
それでも何とか伝わったようで一息つけば、たった一台の自転車を避けるのに、みんな面白いくらいに首をキョロキョロとさせているのだった。
ようやく公園への歩みを再開すれば、数歩進めた先で藤堂さんが再び私の袖を引いてきた。
ああ……見えているのに公園がもの凄く遠い……。
「ねぇ、春。あの白い鳥は何? なんか変じゃない?」
藤堂さん、自分で“白い鳥”と答えを出したなら、それ以上は気にしちゃいけないと思うの。
すぐに返事をしない私に代わり、今回も永倉さんが答えてくれる。
「平助。あれはな……きっと、あれだ。……鳥だ」
うん。藤堂さんも白い鳥と言っていたもんね。
空に鳥が飛んでいたとしても、別に不思議じゃない。
何となくオチは見えているけれど、藤堂さんの視線を辿るように空を見上げれば、そこには一羽の白い鳥が飛んでいた。
正確には、“一羽”ではなく“一機”だけれど。
「あれはですね、飛行機と言って駕籠みた……」
ちょっと待って。
駕籠みたいに移動するための乗り物だなんて口にしたら、再び駕籠舁《かごかき》がどうのという話にならないか?
文明の利器は発達したけれど、いくら鍛えた駕籠舁といえど、その身一つでは空を飛べないぞ!?
そもそも、駕籠ではないのだけれど。
「春?」
続きを求める藤堂さんの視線に耐えかねて、仕方なく口を開いた。
「……白い鳥、ですよ」
べ、別に説明が面倒くさくなったとかそんなんじゃないんだからねっ!
早く公園へ行くことを優先した結果だし!
おかげで、信号を一つ渡れば目の前は公園ということろまでやって来た。
走行中だった車が停車し歩行者用の信号が青に変わる。すかさず歩き出そうとするも後ろから腕を捕まれて、危うく転びそうになった。
「は、原田さん? どうかしましたか?」
「あの駕籠……鉄の駕籠か? ありゃ、おかしくねえか?」
ええ、まぁ、おかしいところだらけかと……。
そもそもが駕籠ではないわけで。
「駕籠舁《かごかき》いなくねえか?」
だって、駕籠ではないわけで……。
ちゃんと訂正しておくべきだったと後悔するも、今さら説明するのは骨が折れそうな気がする。
悩んでいたら、またしても代わりに答えてくれたのは永倉さんだった。
「厠にでも行ってるんじゃないか?」
「なるどな。そうかもしれねえな」
どうやら納得したらしい。
厠に行っているらしい駕籠舁が戻ることなく発車しては、再び質問されかねないので慌てて渡りきった。
公園についたはいいけれど、何からどう説明すればいいのだろうか……と考えていれば、抗えないほどの睡魔に襲われた。
ここで眠るわけにはいかないと思うものの、急激に視界は霞み、全ての音が遠退いていく。
沈み行く意識の中ゆっくりと膝をつけば、頬を撫でる芝生が擽ったいと思ったのを最後に、深い深い眠りに落ちた。
心地よい睡眠を邪魔してくれたのは、若干怒気をも含む随分と聞きなれた声だった。
それらは覚醒するにつれどんどん膨張し、たまらず瞼をこじ開けた。
「いい加減、起きろっ!」
「……あれ、すみません。私寝ちゃったみた……って、あれ!?」
さっきまで公園にいたはずなのに、幕末の新選組屯所、いつもの部屋だった。
「お前も寝てたのか?」
「……ええと、たぶん……」
あれは全部夢だったのか?
って、お前……も?
訊けば、どうやら土方さんもたまりにたまった書状を捌いているうちに、居眠りをしていたらしい。
珍しいこともあるもんだ。
「夢を見てた。お前も出てきて……おかしかった」
「勝手に登場させたうえに、私がおかしいみたいな言い方はやめて下さい。ちなみに、どんな夢だったんですか?」
「……んー、覚えてねぇな」
「……はい?」
覚えていないのに、人をおかしい呼ばわりするとかどういうこと!
思わず反論したくなるのをぐっと堪えて、質問を投げかけてみる。
「未来に行く夢……じゃないですか?」
覚えてねぇ、と一蹴されるかと思いきや、土方さんは少しだけ真面目に考える素振りをみせた。
けれど……。
「やっぱり覚えてねぇな。夢なんざすぐに忘れちまうもんだろう」
何だかよくわからないけれど、やたら乾いた喉を潤しに行くことにした。
結局、あれは何だったのだろうか。
やっぱり、全部夢だったのか?
私の秘密を知っている土方さんでさえ、寝ていただけで何も覚えていないと言うし。
静かな廊下を歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかってしまった。
「わっ、す、すみません!」
「考え事をしていたようだが、大丈夫か?」
斎藤さんだった。
「ついさっき見た、おかしな夢のことを考えていて……」
再びすみません、と謝りその場を離れようとすれば、おもむろに伸びてきた両手が私の頬を包み、上向かせると同時に至近距離で顔を覗き込まれた。
なっ!? 近い! 近過ぎるっ!
「さっ、さ、斎藤さんっ!?」
「異国の着物に身を包み、色とりどりの髪色をした者が多かった」
「へ? な、何の話ですか?」
それよりも、この近さは一体何っ!?
ちょっとした衝撃で、唇が触れ合ってしまいそうで動くに動けないのだけれどっ!
ま、まさか……!?
いや、いくら斎藤さんでも、からかうだけでそこまではしないはず!
「異人は瞳の色が青いと聞いたことがある」
「は、はい? それより、あのっ」
近過ぎるってば!!
一人あたふたするも、斎藤さんの唇がいつもの三日月を作ったかと思えば、何事もなかったように解放された。
「俺も面白い夢を見てな。お前の瞳も確認してみたくなっただけだ」
そう言うと、僅かに肩を揺らしながら去って行く斎藤さんが、思い出したように首だけを振り向かせながら言い放つ。
「何か違う想像でもしたか?」
「なっ! さ、斎藤さんっ!!」
やっぱりまたからかわれていた!
去って行くその背中に向けて文句を言うも、振り返りもせず、くくっと笑われただけだった。
いつもながら、何なんだー!
さっさと台所へ行きお茶を淹れると、ほっと一息ついた。
……ん、あれ?
「そういえば、どんな夢だったっけ?」
随分とおかしな夢だったような気がするけれど……。
「ま、いっか」
そうして、再び湯飲みに口をつけるのだった。
* * * * *
ここまでお読みくださりありがとうございます!
しつこいようですが、本編・閑話集とは一切関係ありません。
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