僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
41 / 129
第09章. “愛してる”がわからない

【トップシークレット】

しおりを挟む
 このように「舞との物語」が劇的に幕を開けたのは
僕が大学2年の夏のことだった。

この頃から僕の日常は舞を中心に回り始めた、
もちろん舞も同様に僕を中心に回っている…いや

きっと舞はこうなる前から人知れずのだろう。

僕は僕で友人関係やバンド活動、大学生活
それらをおざなりにするつもりはなかったが

舞と過ごす時間が一番安らげるように
感じていたのは間違いない。

 とは言え、お互いに束縛しあうこともなく
本当に自由な関係なのは僕たちの性格そのものだろう。

9月になると舞は病院での実習が始まったり
僕の学業以外の部分…
そう、バンド活動が忙しくなってきたこともあり

毎日、ではないものの会えそうな時は
近くのショッピングモール内の
フードコートで待ち合わせた。

大学と看護学校から続く並木道、
その長い坂を一人で下る時間が
僕の秘かな楽しみのひと時となった。

そのすぐ後にはいつもの場所で待つ舞と会えるからだ。

 大学と隣り合わせの看護学校、お互いの校門の前、
などではなく別の場所で待ち合わせしたのは

二人でいるところを
あまり他の人に見られたくなかった、と
言うのもある。

僕が看護学校の生徒と付き合っていることを
友人に知られると

必ず誰かを紹介してほしいと言われるのでは?
と、考えたからだ。

それは正直面倒くさかった、それだけの理由だった。

会えそうな日は前日に電話で約束して

僕たちはどちらか先に授業を終えた方が
フードコートの席を二人分キープして待っていた。

 今日は僕の方が早く着いたかな?なんて
想像しながら向かうのだが

大抵、舞の方が先に来ていた。

ここでそのまま夕食を済ませることもあれば
ジュースなんか飲みながら
ただただとりとめもなく会話する日もある。

今日も先に授業を終えた舞がいつもの真っ青な制服で
フードコートの端っこの席に座っていた。

「待った?」

「待ったよぉー!」

「え、ごめんごめん」

「30秒くらいだけどね」

「ははは、そりゃ待たせたね、随分」

僕と舞の会話はいつもこんな感じ
本気なんだか冗談なんだかわからない。

「ねえ、今日ってコウイチくんとこ行っても大丈夫?」

「あ、全然いいよ、今日はちゃんと時計動いてるから」

「あは、電池切れの時計はどうなったの?」

「よく叱っといたよ、電池も変えたし」

「はは、怒られたんだ?時計くん、また送ってってね、門限に遅れそうになったら」

「筋トレにもなるし、ね」

「ははは、だよね」

 僕たちは薄暗くなり始めた歩道を
下宿へと向かって歩き始めた。

行き交う人たちがまばらになったのを見計らったのか
国道沿いの広い道から下宿へ向かう
狭くて薄暗い路地に入った時

ふと舞の右手が僕の左手に触れた。

舞は恥ずかしそうに俯きながら
そっと右手を差し出した。

気付けば僕たちは指を絡ませた
いわゆる "恋人繋ぎ"の状態で並んで歩いていた。

これまで一緒に歩くことはあっても
まだどこか恥じらいがあったのか

少し距離を置いて歩いていた二人。

舞は手を繋ぐことですら
どこか新鮮なことのように感じている、
ようにすら思える。


こんな僕が舞と付き合い始める前に
美波とがあったなんて

もし知られたなら・・・

舞は僕のことを軽蔑するだろうか?

そう、それは数ヶ月前に美波が半ば冗談半分で
僕をラブホテルに連れて行き

その後、有香が舞と共に僕の部屋を訪れた6月3日から
僕が舞と初めて電話で話した7月12日の夜

それまでの39日の間に起きた
僕と美波との" たった一度の秘め事 " のことを…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...