僕とあの娘

みつ光男

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第14章.  おんなになぁれ

【緊急事態宣言】

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 その日、舞はいつも以上に早起きだった
言うまでもない、お見舞い代わりとして
鴻一に渡す朝食弁当を作っていたのだ。

「よし!これで完成!コウイチくん今日も
全部食べてくれるかなー?」

昨日は咲良もいなくて何か寂しかったし
コウイチくんとは電話では話せたけど
もう2日も会ってない

学校行く前にお弁当作って届けよう

そう決めていつもより1時間早起きした。

ー ふふっ、コウイチくんわたしが突然現れたら
びっくりするだろうな

2限からって言ってたからあんまり早く行くと
起こしちゃうから・・・

8時前くらいなら起きてるかな?


 舞はいつもより二便、早いバスに乗って
看護学校へと向かった。

とりあえず学校に教科書だけ置いてから
川俣荘に向かう舞

信号を渡ってちょうどレンタル屋の前あたりに
差し掛かったその時

ここで意外な人物と遭遇した。


「あれ?咲良じゃない!今着いたの?」

「あ、舞、おはよう」

「始発に乗って帰って来たんだ?」

「そっ、そう!早く着きすぎて駅から歩いてたんだ」

「そうなんだ、間に合ってよかったね」

「舞も早いね、ナカムラくんとこ行くの?」

「そぅ!お弁当作ったんだよ、咲良も来る?」

「あ、うちはいいよ。二人で会いなよ、久しぶりなんでしょ?」

「うん、じゃあ行ってくるね」

「はーい、ごゆっくり~」

「そんなにゆっくりは出来ないけどね、一目だけでも、ふふっ」


舞の後ろ姿を見送りながら

「まさか…バレないよね?」

つい数分前まで自分がいた鴻一の部屋、

何もなかったとは言え、二人で一夜を明かした部屋に
今、舞が向かっている

咲良は慌ててカバンの中から時刻表を取り出した。

「え~っと始発で帰ったとして…」

ー最寄りの厚木駅着は7時28分
あそこから歩いて看護学校に向かっていたら?

「ちょうどこの時間でこの辺りだね」

時間に関しては辻褄つじつまが合うから問題ない

あとはうちがナカムラくんの部屋にいた
その形跡さえ残ってなければ…

「あ!缶ビールの空き缶、どうしたっけ?」

確かナカムラくん、お酒飲まないんだよね?
もしもあんなの部屋にあったら

疑われるかも?

どうしよう?
舞のこと追いかけようか?

もう間に合わない
舞はそう言うとこ意外に鋭い娘なんだよね

もしもバレちゃったら・・・

「ごめんね」

その時は舞に謝ろう

ナカムラくんならきっと片付けてくれてる…
かな?

でもやっぱり心配
後からこっそりナカムラくんに…聞いてみる?

いや、それより前に舞の態度で
わかっちゃうよね

バレたかどうかなんて。


やっぱやめときゃよかったなぁ
親友の彼氏の家にこっそり転がり込むなんて

うん、このことは考えないようにしよっと


ナカムラくんのことだ
今日も電話かけてくるだろな、うちとこに。

その時にこっそり聞いてみようかな

その前に舞の態度が不自然だったら
すぐにわかるからその時は・・・

「正直に話すしか…ないでしょ」

実習行くまではまだ時間あるから
舞がナカムラくんとこから帰ってくるのが
早かったら…

何か気まずい雰囲気になってる
そう言うことだよね?

「ちょっと待ってみるか」

今頃、舞は川俣荘に着いた頃かな?

しかし、何やってんだろ
アリバイ工作みたいなことしちゃってさ

あぁ、隠し事なんてするもんじゃないな。

咲良からはすっかり
先ほどまでの甘い余韻が消えていた。
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