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第2章 その比率は6:4なり

【摩訶不思議】

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 その時俺はふと我に返ってに沙理奈に尋ねた。

「あのさ…時間ってまだ大丈夫?」

暗い部屋の中で目を細めながら
タイマーをチェックした彼女は

「あ!急がなきゃ、あと4分でシャワー
だっっっ!」

「マジで?そろそろ本格的にフィニッシュに向かわなきゃ、だね」  

「うん!それじゃ…私、もっと攻めちゃう!」

初対面のぎこちなさを風俗では
あまり体験したことはないが

沙理奈の特別感、安心感は既に別格だ。

まるで旧知の中、過去と比べるのは悪いと思いつつ
そう、まるでレイナと再会したかのような
懐かしさすら覚えた。

これもまた"運命"なんて言葉にすり替えられた
俺の身勝手な思い込み、なのだろうか?

 そんな思いを掻き消すかのように
二人は見つめ合って無言になると

体をくねらせてもつれ合うように重なり
互いに指と身体を絡め合う。

俺は沙理奈の髪を撫でながら
股間に神経を集中させ互いに激しく体を揺らす。

「ん…ん!」

彼女の動きが少しずつ早くなり手と口で
"俺自身"を優しく、そして激しく攻めてゆく。


遂に俺はエクスタシーを迎える…

 正に天にも昇る感覚に襲われたその時、
確かに沙理奈の口へ容赦なく"発射"した…はずだった。

「イッた…よ、さりなちゃん」

「ん…?」

だが沙理奈はきょとんとした顔で
無言のまま俺の顔をじっと見ている。

「ねぇ、出…た?」

「と、思う…けど」

すると彼女は口を開け、軽く舌を出して

「うぅん、何も出てないかも…もしかして、少ない…タイプだったりする?」

「いや、そんなことは…むしろドバッとめっちゃ出る方…だよ」

「じゃあ…何にも…出てない…かも」

 人差し指で舌をさすりながら口に手を当てて
何も出ていないことを確認した沙理奈。

俺は確かにイッたはずだった、
発射した感覚も間違いなくあったのに

何も出ていないって…どう言うことだ?

 その証拠に俺の竿はすっかり縮こまって
まるで地面から顔を出したばかりのたけのこのように

陰毛の奥の方へ隠れ気味になっている。
  
「ほら、俺のこんなになってるよ、イッたはずだから」

「あら、ほんとに」

「出たはずなんだけどな…」

すると沙理奈は

「すごい!お兄さん!悟りだ!悟ったんだ!あははは!」

そう言って大声で笑った。

何が何だかよくわからないが俺も連られて笑った

 時間内に発射させてくれなかったじゃないか…
なんて、微塵も不満に思わなかった。

むしろこんなかわいい娘の口の中に
俺の"液"を出さずにエクスタシーに達したことを
逆に嬉しく思った。

その証拠に俺はずっと満面の笑みのまま
沙理奈を抱きしめて

「ありがとう、ほんと、凄くよかったよ」

そう耳元で囁いた。

沙理奈は抱きしめられたままうんうんと頷いて

「ありがと…ごめんね、出せなかったね」

そう言いながら俺の背中に手を回すと
同じように優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫、ちゃんとイッてるよ」

「うん…」

こんなことってあるのか?
少なくとも俺は過去に一度も体感したことはない

射精しないままエクスタシーに達するなんて…

俺が悟ったんじゃない、いつだって遠慮なく発射してきた
逆に沙理奈こそ何か特別な力を持っているのかも知れない

そう思わされるほどに不思議なフィニッシュだった。
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