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その壱.幼少期編
【夢枕】
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突然だが私の父親は戦争孤児だった
父の母親、つまり私の父方の祖母が
身籠っている間に南の島で戦死したとのこと。
故に、父親は生まれながらにして母子家庭であった。
そんな父親を親代わりに育ててくれた
叔父がいたそうなのだが
私が小学生になった頃、病気で亡くなった。
この時、私は始めて誰かの葬儀に参列することになった。
棺の中で眠る還らぬ人の亡骸、泣き崩れる家族、
その異様とも言える光景を今でもよく覚えている。
父親は終始無言で叔父を見送っていた。
それから数ヶ月、もしくは1年ほど過ぎたある日
父親が奇妙な話を始めた。
こんな話は小さな子供のいる前で
するべきものなのかと今になっては思うのだが
夕食を囲みながら父親はこう語り始める。
ー数日前から亡くなった叔父が夢に出てくる、と。
何かを訴えるわけでもなく、態度で示すわけでもなく
ただ無言で枕元に立っている。
しかしその目は市場に並ぶ魚のように
どんよりと虚空を見つめ
焦点の合わない視線ながらじっとこちらを見ている。
それが眠っている時なのか、目覚めているのか
はっきりとせず
気付けば寝ている自分の枕元に立っているのだ、と。
半分目覚めた状態でふと見上げると
毎夜のように夢枕に叔父が現れる
だから夢なのか現実なのか定かではないが
間違いなくその姿は亡くなった叔父だと言う。
ある晩、再び叔父が夢枕に立ち
恐怖に堪えきれずその場から立ち去ろうとした…
すると真っ白な長い腕が伸びて
父の首もとを掴み離さない
そして、もがいている間に目が覚めるらしい。
そんな現象が数日に亘って続いたため
もう限界だったらしく父親は
ある所で相談を受ける決心をした。
そして私は生まれて初めて
霊媒師なる人の元へ家族で会いに行くことになった。
その霊媒師さんはいわゆる"イタコ"系の方だった。
水晶などを使って霊視をするとかの行為はなく
明らかに死者の霊を呼び寄せて憑依させるタイプ。
家族が霊媒師さんにどこまで事情を伝えているかで
その信憑性ははっきりするのだが
天から舞い降りて来たであろう父親の叔父は
霊媒師さんの体を借りてこう語り始めた。
ーこの世を去ってから家族の誰もが
仏前に水を供えてくれない
喉が渇いてたまらなかったのだ。
だからこうして毎夜お前(私の父親)の枕元に立った。
わしがこの世を去ってから家族からは忘れられ
大変寂しい思いをしていたので
ここに来たと言うわけだ。
すまんがこれからも水を供えてくれない時は
夕方、川にやかんで水を流してくれないか?
それで喉の渇きも少しは癒せる
今回は驚かせて本当にすまなかった…
どこまで本当なのか今となってはわからないが
私はその霊媒師さんの話を間近で聞いていた、
幼い記憶ながらその言葉の記憶に偽りはない。
確か父親の叔父の葬儀の際、彼の娘さんたちは
「これでやっと旅行行くのに許可を貰わなくて済むわ」
などと少々不謹慎な発言をしていたのを私は覚えている。
父親の叔父は警察官だった
よほど厳格な家庭だったのだろう。
その日の夕方、父親は叔父の家に連絡をして
仏前の供物や水を絶やさないよう懇願した。
そして我が家の家族みんなで川岸から
やかんに数杯の水を流した。
「これで今夜から本当に出てこないんやろか?」
半信半疑の父親に
「もし困ったら今度はボクのとこでもええよ」
私がそう言うと
「そんなこと言うとホントに出てくるぞ」と
父親は困ったように苦笑いした。
仏前に水、のくだりはもしかしたら
当時の霊媒師さんの常套句だったのだろうか?
それとも本当に叔父の霊が降臨して
そう告げたのだろうか?
全ては謎のまま私は大人になり
私自身が霊媒師さんのお世話になることは
これまでなかったので真実は不明だが
ただひとつ、間違いなかったことはこの日の夜から
父親の夢枕に叔父の霊が立つことはなかった。
もしかしたからその現実が答え…なのかも知れない。
父の母親、つまり私の父方の祖母が
身籠っている間に南の島で戦死したとのこと。
故に、父親は生まれながらにして母子家庭であった。
そんな父親を親代わりに育ててくれた
叔父がいたそうなのだが
私が小学生になった頃、病気で亡くなった。
この時、私は始めて誰かの葬儀に参列することになった。
棺の中で眠る還らぬ人の亡骸、泣き崩れる家族、
その異様とも言える光景を今でもよく覚えている。
父親は終始無言で叔父を見送っていた。
それから数ヶ月、もしくは1年ほど過ぎたある日
父親が奇妙な話を始めた。
こんな話は小さな子供のいる前で
するべきものなのかと今になっては思うのだが
夕食を囲みながら父親はこう語り始める。
ー数日前から亡くなった叔父が夢に出てくる、と。
何かを訴えるわけでもなく、態度で示すわけでもなく
ただ無言で枕元に立っている。
しかしその目は市場に並ぶ魚のように
どんよりと虚空を見つめ
焦点の合わない視線ながらじっとこちらを見ている。
それが眠っている時なのか、目覚めているのか
はっきりとせず
気付けば寝ている自分の枕元に立っているのだ、と。
半分目覚めた状態でふと見上げると
毎夜のように夢枕に叔父が現れる
だから夢なのか現実なのか定かではないが
間違いなくその姿は亡くなった叔父だと言う。
ある晩、再び叔父が夢枕に立ち
恐怖に堪えきれずその場から立ち去ろうとした…
すると真っ白な長い腕が伸びて
父の首もとを掴み離さない
そして、もがいている間に目が覚めるらしい。
そんな現象が数日に亘って続いたため
もう限界だったらしく父親は
ある所で相談を受ける決心をした。
そして私は生まれて初めて
霊媒師なる人の元へ家族で会いに行くことになった。
その霊媒師さんはいわゆる"イタコ"系の方だった。
水晶などを使って霊視をするとかの行為はなく
明らかに死者の霊を呼び寄せて憑依させるタイプ。
家族が霊媒師さんにどこまで事情を伝えているかで
その信憑性ははっきりするのだが
天から舞い降りて来たであろう父親の叔父は
霊媒師さんの体を借りてこう語り始めた。
ーこの世を去ってから家族の誰もが
仏前に水を供えてくれない
喉が渇いてたまらなかったのだ。
だからこうして毎夜お前(私の父親)の枕元に立った。
わしがこの世を去ってから家族からは忘れられ
大変寂しい思いをしていたので
ここに来たと言うわけだ。
すまんがこれからも水を供えてくれない時は
夕方、川にやかんで水を流してくれないか?
それで喉の渇きも少しは癒せる
今回は驚かせて本当にすまなかった…
どこまで本当なのか今となってはわからないが
私はその霊媒師さんの話を間近で聞いていた、
幼い記憶ながらその言葉の記憶に偽りはない。
確か父親の叔父の葬儀の際、彼の娘さんたちは
「これでやっと旅行行くのに許可を貰わなくて済むわ」
などと少々不謹慎な発言をしていたのを私は覚えている。
父親の叔父は警察官だった
よほど厳格な家庭だったのだろう。
その日の夕方、父親は叔父の家に連絡をして
仏前の供物や水を絶やさないよう懇願した。
そして我が家の家族みんなで川岸から
やかんに数杯の水を流した。
「これで今夜から本当に出てこないんやろか?」
半信半疑の父親に
「もし困ったら今度はボクのとこでもええよ」
私がそう言うと
「そんなこと言うとホントに出てくるぞ」と
父親は困ったように苦笑いした。
仏前に水、のくだりはもしかしたら
当時の霊媒師さんの常套句だったのだろうか?
それとも本当に叔父の霊が降臨して
そう告げたのだろうか?
全ては謎のまま私は大人になり
私自身が霊媒師さんのお世話になることは
これまでなかったので真実は不明だが
ただひとつ、間違いなかったことはこの日の夜から
父親の夢枕に叔父の霊が立つことはなかった。
もしかしたからその現実が答え…なのかも知れない。
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