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大賢者、生き返る2
しおりを挟む女神様と話す前のことをサラッと話した俺。
(つまり、あなたはこれまでの記憶がない、という訳ですね?)
「ああ、そうだ。たった今、死ぬ時のことだけは思い出したがな。」
(……っ、そう、ですか。まあ、記憶が無い、あなたのために説明させてもらうと、ですね。簡単に言わせていただくと、あなたは勇者たちと共にこの世界を脅かす、悪の根源である魔王を打ち倒しに行ったのです。魔王は倒すことが出来ましたが、その、あなたが、悪いことに……ええと……)
「ああ、魔王に殺られちまった、って訳か。」
あの時、後ろから貫いてきたのは魔王の剣だろうか?
(はい、その通りです。そして、あなたの死体を魔王討伐パーティの方たちがこの国へと連れ帰り、あなたの故郷であるこの町の神殿に、死体を安置した、という訳です。)
「ええ、それじゃあ俺が入れられてた箱って、もしかして、」
(ええ、棺ですね。)
ああ、なるほどね~……うん、つまり俺は1回死んだはずなのに、何故か生き返って、その上自分で棺を蹴破り、出てきてしまったと。おう、俺、正真正銘のゾンビじゃねえか!
マジかよ!誘拐犯、さっきは阿呆とか言ってごめんな!全然誘拐じゃねーじゃん!恥ずかし!
あれ、でもそういえば俺、死んだ時なにかで背中から刺されたはずでは……?その傷、全くないけどな。
(ええと、勇者様が、外傷は綺麗に治されておりましたよ。でも、傷は治っても1度死んだ者は生き返りませんからね……。)
ふーん、なるほどね。ありがとよ、イケメン勇者!治してくれたの、お前か!まあ、起きて俺の腹がぽっかりなくなってたら、絶叫ものだし、ホラーだよな、完全に。完全に化け物だわ、それ。
「ってか、なんで女神様は俺の事知ってるわけ?」
と首を傾げて尋ねると。
(な、なんでって、それはあなたがとても偉大で、有名な方だからですよ!魔王を勇者と共に討伐し、この世界に平和をもたらした大賢者アルバート!巧みに魔術を使いこなし、魔術士最強とも言われた方なんですから!)
何やら興奮した様子で女神様にまくし立てられた。そんなに凄かったのか俺!単純に嬉しいな……まあ、魔王を倒したぐらいだから結構有名人だったのだろう。
ううーん、でも、一体これから俺はどうすれば……。有名人の俺がこの姿で町を徘徊してたりなんぞしたら、
「こ、こいつ!アルバートじゃねぇか!い、いい、生き返ってやがる!こいつはゾンビだ!殺せー!!うぉぉぉー!」
なんてことにもなりかねない。2度も死ぬなんて絶対に御免だぜ!
自分がまた死んでしまう想像をして、体にぐるぐるに巻き付けているカーテンを握りしめてガクガクブルブルしていると。
(それならば、あなたの得意な変身魔法で姿を変えればいいじゃありませんか!)
と、またもや興奮したように女神様が提案してくる。
なるほどね!そうか!俺魔法使えるんだったわ!ええと、変身魔法、変身魔法……。どうやるんだったかな………うーん、ううーん………………うわぁぁぁんぜんっぜん思い出せねー!
「すみません女神様!魔法の使い方忘れました!」
ビシ!と手を挙げて正直に宣言する。
(ええと、すみませんが、魔法については私にも、詳しくは分からないのです……ごめんなさい、魔法を使ったことがないもので……。色々コツがあるらしいので私には役不足だと思うのです。……あ!それならば冒険者ギルドを訪ねてみるのはいかがですか!あそこには冒険者が沢山いますので魔法の扱い方には慣れているはずです!)
そうか、確かに女神様は魔法使わないかぁ……。まあ、ギルドにつくまでの顔バレは仕方がないか……いや、でもきっとみんながみんな、魔王倒す途中で死んだ俺みたいなやつなんて覚えてねーだろ!うん!きっとそうだ!大丈夫大丈夫!
と、適当に自分を納得させた。
それにしても、冒険者ギルドがどこにあるのかもわからんっ……。
(それでしたら!私におまかせを!私はこの国の地の女神ですので、この土地には詳しいのですよ!)
おおー!それは期待できる!
よろしくの意味を込めてグッ!っと、グーサインを向けた俺に、女神様は
(ふふ!道をお教えします!)
なんて、明らかに嬉しそうな声色で道順の説明を始めるもんだから、俺の方まで嬉しくなってしまった。動かないはずの女神像も、今は心なしか嬉しそうに頬が緩んでいるようにも見える。
この女神様、ちょっと可愛いな……なんて思いながら、俺はギルドへの道を頭に叩き込む。
俺はちょっとしたバカだったらしく、3回くらい聞き直したけどね。
✻
神殿を出て、女神の言う通りに道を進んで10分ほど。女神と長々と話していたせいか、辺りはすっかり日が昇り、明るくなっていた。朝日が眩しい。まあ、この光を見るのもきっと久しぶりなんだもんなぁ……。なんとまぁ感慨深い。
「うーん、まずはギルドに行って、変身魔法で姿変えて、そんで服とか買うか……。まじで、カーテンぐるぐる巻き男、はたから見たらフルチンよりはマシだけど、だいぶ不審者だよなあ……。」
今の季節は、夏らしい。
結構分厚かったカーテンをぐるぐるにしているせいで、熱が籠ってすごい暑い。汗がドバドバ溢れてくる。ああ、早く服買いたい。
「はぁ、暑ぅ……。あ、そういえば、俺、昔は大賢者アルバート、偉大なる魔術士、なんて呼ばれてたらしいしなあ。意外とコツとかわからなくても、魔法使えたりしねーかな。クソ暑いから、なにか涼しくなる魔法を……。」
ちょっとワクワクしながら、
「うーん、とりあえず、アイス!」
ぱっと手を地面にかざし、そう叫んだ───が、当然のように何も起こらない。
「ううー駄目だ。やっぱコツが大事なのかなぁ……。」
うーん、と首を捻るが、できないものはしょうがない。ギルドにつくまでは暑いのは我慢しようと、気をとしなおしてとりあえずギルドを目指す。
ここはとんだ田舎町なのか、歩いてきたこれまでの景色は畑のみだった。あとは、ぽつぽつと家が数軒立ち並ぶ程度。遠くで、畑仕事をしている人を見かけることも出来た。
しかしそれが、前方に見える大きなアーチの向こう側には、たくさんの店が立ち並んでいるのが見えた。一気にガラッと町並みが変わっている。
「おお!ついに、町の中心部に着くぞ!えっと、ギルドは大きな広場のとこにあんだっけな。」
体からはみ出たぶんのカーテンをずりずり引きずりながら、アーチの中へと入る。
アーチの前に立っている門番さんらしき人にはジロジロと見られたが、何も言われることは無かった。
「うわぁぁぁ~すっげえ……!」
その中は、たくさんの人で賑わっていた。立ち並ぶ様々な店。どれもカラフルでとっても素敵だ。道に沿って綺麗に木も植えられている。遠くからは子供たちが楽しそうにキャラキャラと笑う声が聞こえ、そこかしこで大人たちが談笑して楽しそうにしている様子が見えて、なんだかこっちまで楽しい気分になってくる。
でている屋台を物色しながら暫く歩いていると、ふと抜けた場所に出た。ここが広場なのだろう。ベンチがいくつかあって、その横では夏らしく、冷たそうな軽食を売っている屋台がでていた。
その横もスルーし、“ 冒険者ギルド”
と書かれた建物の前に立つ。
よし、ここだ。
すうっと息を吸い込んで、ギイっと扉を開けると。
中にいた、屈強な戦士たちが、皆んな此方を見つめてきた。やばい。なんでこんな注目されてるんだ?ああ、そうか。俺がカーテンぐるぐる巻き男だからか、仕方がない。いや、それにしても非常に気まずい……。どうしようかと、チラチラと周りを伺ってみると、そこにいた冒険者たちはコソコソと
「なぁ、あいつ、、すっげー大賢者様に似てね?」「え?そっくりさん?つか、ちょー美人じゃね?タイプだわァー!」
などと、何やら喋っている声が聞こえてくるが、声が小さくてよく聞こえない。多分、俺のこの格好を見てみんな笑っているのだろう……。
皆んなにじろじろみられて、困ってその場に立ち尽くしていると奥の方から真っ赤な短髪の男がでてきた。顔はものすごいイケメン。こんな人に口説かれたら、誰だってイチコロだろうな……そんなことを考えながら、その男の人をぼうっと見つめていると……
「おいおい、お前ら、なんの騒ぎだ?何か起こしちゃあ、ギルドマスターのこの俺が黙っちゃいな……って、え?」
俺の前まで来た、その男は俺の事を見て固まってしまった。
きっと俺の格好を見て、驚きで固まってしまったのだろう。何せ、カーテンぐるぐる野郎だ。俺でも、見たら2度見するね。
その男と暫く見つめ合った後、震えた声で
「お、お前、何者だ……?」
と、尋ねられてしまった。
明らかに不審者だと思われてるよ、これ。
うーん、何者だ?と言われても、
「1度魔王に倒されて死んだはずの、大賢者アルバートでーす!」
なんて言っても誰も信じないだろう。なんと言えば良いか……早く何か言わないと、やばいやばい、何か言い訳を……あ、そうだ!
「す、すみません、俺、記憶を無くしてしまっていて。とりあえず、人が沢山集まってそうなところに来ようと思って……。それで、とりあえずギルドに行ったら、なんとかなるかな、みたいな……?」
そう、記憶喪失のフリ、だ。いや、実際記憶喪失だし。事実だし!しかも、こんな状況で、おこがましく魔法教えて貰うために来ちゃいました!なんて言っても、絶対教えてくれないだろう。てか、逆に図々しい奴め!出ていけ!なんてなったら、俺、行く宛てなしだしなぁ……。とりあえずギルドに来ちゃったていで行こう!
「なるほど……それじゃあちょっと、奥の部屋に来てもらえるかい?」
「は、はい、もちろんでございます!」
や、やばいぞ。これ、絶対尋問が始まるやつじゃん……。しかも焦って、変な受け答えしちゃったよ……。
この赤髪の男が固まっていたのは、俺の顔が大賢者アルバートにそっくりだったからだということは露知らず、俺はこれから始まるであろう尋問に身を震わせながら男のあとを着いて行ったのだった。
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