用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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ただいつもと違うのは、視線を感じるだけではない、ということだ。
後ろから、ゆっくりと僕に近づいてくる気配を感じる。

(なんで?いつもは見てるだけなのに。)

必死に本へと視線を落とすが、耳だけは彼の足音を拾おうと意識してしまう。
ページをめくる音に混ざって、かすかに聞こえる砂利を踏みしめる音。

もう、彼はすぐ側まで。


───その瞬間、肩を後ろから掴まれた。

「……っぅあ!!」

僕はびくりと大きく肩を震わせ、勢いよく立ち上がった。大きな音を立てて、膝の上に乗っていた本が地面にひっくり返る。
喉が詰まる。息ができない。

「……なんだ。そんなに驚くことか?」

振り返り顔を上げると、金の髪を陽にきらめかせた少年───レオン・アーヴェントが、怪訝そうにこちらを見ていた。

しかし、彼に重なるようにして、お父様の姿が見える。

(これは、幻覚か?それとも、本当にお父様……?また僕に、折檻を……?)

頭が混乱して、上手くまとまらない。

頭の冷静な部分が、彼はレオン・アーヴェントで、僕に話しかけようと後ろから声をかけてきただけだと語りかけてくる。
しかし、お父様に言われた言葉が次々と頭に蘇る。

 “動くな、ノア”
 “お前が悪いんだ”

(怖い。嫌だ。ごめんなさい。お願いします、やめてください……!)

心の中では謝っても、喉が詰まって声が出せない。

───どうしよう。また、殴られる。きっとまた、僕がヘマをしたんだ。悪いことをしたんだ。だから、お父様は僕を折檻しようと…………

「おい!聞いてるのか、ノア・グランベル!!」

彼の声に、ハッとする。目の前には、レオン・アーヴェントの顔が。
棒立ちの僕を、肩をつかみ揺さぶっている。

(そうだ、この人はレオン・アーヴェント。お父様じゃない。ただ、話しかけに来ただけ。ただの、クラスメイト……)

「す、すみません、少し、考え事をしていまして……。」

必死に声を絞り出し、笑顔を作った。
声が少し震えたけれど、彼には気づかれなかった……と思いたい。

レオンは眉をひそめたまま、軽く頭を下げた。

「そうか……ならいい。驚かせてしまったなら、悪かったよ。話はまた今度にするな。じゃあ。」

そう言うと、レオンはスタスタと中庭をぬけて、校舎へと戻って行く。

レオンが完全に去っていくのを見届けてから、僕は崩れ落ちるようにベンチに腰を下ろした。膝の上で握った手が、未だに細かく震えている。

 (……やってしまった。絶対に不審に思われた。)

今まで、どんなことを言われようと表情を変えずに、なんてことないとやり過ごしてきた。そうやって自分の感情を隠すことだけは得意だったはずなのに。

───ただ、後ろから肩に触れられただけ。
たったそれだけの動作で、お父様からの折檻を思い出してしまうなんて。
後ろから急に人に触れられると、見えないうえに何をされるのか分からないという恐怖から、パニックになってしまうのだろうか。


自分がこんなにも弱い人間だとは思わなかったな……。


中庭を吹き抜ける冷たい風が、地面に落ちた本のページをばらばらにめくっていった。







(明日はレオン視点を投稿します!!)
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