用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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どれくらいの時間が経っただろうか。
僕が目ゆっくりとを開けると、視界に飛び込んできたのは、アランの顔だった。

「……ノア兄様!目が覚めた!よかった……!」

アランがひどく安堵した顔で、僕を覗き込んでいる。

「アラン……?僕たち……どうしてここに……?」

頭がぼんやりしていて、状況がよく理解できない。寝転がったまま上をぼんやりと見上げると、目の前に高い崖があり、遥か高い位置に先程、僕たちがいた事を思い出す。

(そうか、僕たちこの上から落ちたんだっけ……。)

それにしては、全身の痛みがあまりにも少ない気がする。
あんな高さから落ちたら、タダではすまないだろうに。

「僕たち、あの崖から転がり落ちたんだ。でも、急に兄様の胸元が光って、僕たちを包み込んでくれて。多分、きっとそのおかげで、この通りほとんど無傷なんだ。」

アランが指さすのは、僕の胸元だ。

「もしかして……光ったのって、これかな……。」

僕は、そっと服の下に隠れていたペンダントを取り出した。
ペンダントを見ると、ルカスに貰った時には緑色だったはずの石は、完全に光を全て吸い込んでしまうような真っ黒色に変わっていた。周囲の蛇の巻きついたような装飾も、まるで煤を被ったように鈍い光を放っている。

「……えっ」

その時、ペンダントを見てアランが低い声を漏らした。
その表情は、安堵から一変して、驚愕と混乱に満ちている。

「これ……兄様、このペンダント……」

アランは僕のペンダントを掴むようにして、その装飾を凝視したかと思うと、アランはすっと顔を上げ、僕をまっすぐ見つめた。その目には、いつもの弟としての親愛とは違う、探るような真剣な光が宿っていた。

「兄様、このペンダント……どこで手に入れたんだ。この蛇の装飾、俺には見覚えがある」

僕の背筋に、冷たいものが走った。

「兄様は知らないかもしれないけど、俺は昔、誘拐されて……その後、ある国の狩人の家に逃げ込んで、そこでしばらく養ってもらってたんだ。」

「……うん。昔、アランがその……誘拐されたって言う話は知ってるよ。」

「その後匿ってもらっていた狩人の家で、同じ装飾を見たんだ。その狩人は、ペンダントじゃなくて、全く同じ装飾の付いた短剣を持っていた。狩人は、その短剣を彼の家族に代々受け継がれている、大事な物だと説明していた、気がする……。しっかりと彼の国の言葉全てを理解出来ていたわけじゃないから、少し意味が違っていたかもだけど。」

アランはペンダントの装飾を指でなぞる。

「その短剣は、その部族の血や誓約に関わる、特別なシンボルなんだって、言ってた気がするんだ。なのに、兄様がそれを……。
これ、どこで手に入れたの、兄様。」

アランは僕を真っ直ぐに見つめて、問うてくる。
アランの声は、微かに震えていた。 


その時僕は、初めてルカスに会った時に彼が言っていた言葉を思い出していた。

「「君を奴隷として、僕たちの国に売り出しかねないってこと───って、言い過ぎたかな」」

あの時、ルカスはこの国の人間じゃないかのような発言をしていたんだ。

───もしかしたら、ルカスの国と、アランが匿ってもらっていた狩人のいた国は同じだったりするのだろうか。

ただ、ルカスにもらったなんて話は正直にできない。
アランはきっと、お父様が人身売買オークションに関わる人達との繋がりを持っているなんて、知らないだろう。
ルカスの話をすれば、必然的にあのパーティの話もしないといけなくなる。

「えっと、それは……」

僕は言い淀んだ。

「なんで黙ってるんだ、兄様。ただのアクセサリーじゃないだろ。これは……いや。」

しかし、僕の言葉を待たず、アランは自分の口元を押さえた。

「───いや、今はいいや。」

アランはペンダントから手を離すと、深く息を吐き、周囲を見渡した。

「この話は今じゃなくても良かったね。こんな崖の下で、急ぐ必要のない話をしても意味がない。後でゆっくり聞くから、全部教えてくれないかな、兄様……。
とりあえず、上に戻る方法を考えよう。テルノたちも心配しているはずだし。」

アランの言葉は、僕への追及を一時中断するという意思表示だった。
しかし、「全部教えてくれ」という彼の言葉は、確実な約束として僕の心に重くのしかかる。


───ただ、今はゲームの途中だ。そして、僕たちは崖の下にいる。

確かに、彼の言う通りだ。
まずは、レオン君とテルノの元へ戻らなければ。

「……うん、分かった。崖の上に戻る方法を考えよう」



黒く変色したペンダントが、服の下でひんやりと冷たい。

僕たちの知らないところで、このペンダントが僕たちの運命に絡みつき始めているような、不吉な予感がした。



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