37 / 76
37
しおりを挟むどれくらいの時間が経っただろうか。
僕が目ゆっくりとを開けると、視界に飛び込んできたのは、アランの顔だった。
「……ノア兄様!目が覚めた!よかった……!」
アランがひどく安堵した顔で、僕を覗き込んでいる。
「アラン……?僕たち……どうしてここに……?」
頭がぼんやりしていて、状況がよく理解できない。寝転がったまま上をぼんやりと見上げると、目の前に高い崖があり、遥か高い位置に先程、僕たちがいた事を思い出す。
(そうか、僕たちこの上から落ちたんだっけ……。)
それにしては、全身の痛みがあまりにも少ない気がする。
あんな高さから落ちたら、タダではすまないだろうに。
「僕たち、あの崖から転がり落ちたんだ。でも、急に兄様の胸元が光って、僕たちを包み込んでくれて。多分、きっとそのおかげで、この通りほとんど無傷なんだ。」
アランが指さすのは、僕の胸元だ。
「もしかして……光ったのって、これかな……。」
僕は、そっと服の下に隠れていたペンダントを取り出した。
ペンダントを見ると、ルカスに貰った時には緑色だったはずの石は、完全に光を全て吸い込んでしまうような真っ黒色に変わっていた。周囲の蛇の巻きついたような装飾も、まるで煤を被ったように鈍い光を放っている。
「……えっ」
その時、ペンダントを見てアランが低い声を漏らした。
その表情は、安堵から一変して、驚愕と混乱に満ちている。
「これ……兄様、このペンダント……」
アランは僕のペンダントを掴むようにして、その装飾を凝視したかと思うと、アランはすっと顔を上げ、僕をまっすぐ見つめた。その目には、いつもの弟としての親愛とは違う、探るような真剣な光が宿っていた。
「兄様、このペンダント……どこで手に入れたんだ。この蛇の装飾、俺には見覚えがある」
僕の背筋に、冷たいものが走った。
「兄様は知らないかもしれないけど、俺は昔、誘拐されて……その後、ある国の狩人の家に逃げ込んで、そこでしばらく養ってもらってたんだ。」
「……うん。昔、アランがその……誘拐されたって言う話は知ってるよ。」
「その後匿ってもらっていた狩人の家で、同じ装飾を見たんだ。その狩人は、ペンダントじゃなくて、全く同じ装飾の付いた短剣を持っていた。狩人は、その短剣を彼の家族に代々受け継がれている、大事な物だと説明していた、気がする……。しっかりと彼の国の言葉全てを理解出来ていたわけじゃないから、少し意味が違っていたかもだけど。」
アランはペンダントの装飾を指でなぞる。
「その短剣は、その部族の血や誓約に関わる、特別なシンボルなんだって、言ってた気がするんだ。なのに、兄様がそれを……。
これ、どこで手に入れたの、兄様。」
アランは僕を真っ直ぐに見つめて、問うてくる。
アランの声は、微かに震えていた。
その時僕は、初めてルカスに会った時に彼が言っていた言葉を思い出していた。
「「君を奴隷として、僕たちの国に売り出しかねないってこと───って、言い過ぎたかな」」
あの時、ルカスはこの国の人間じゃないかのような発言をしていたんだ。
───もしかしたら、ルカスの国と、アランが匿ってもらっていた狩人のいた国は同じだったりするのだろうか。
ただ、ルカスにもらったなんて話は正直にできない。
アランはきっと、お父様が人身売買オークションに関わる人達との繋がりを持っているなんて、知らないだろう。
ルカスの話をすれば、必然的にあのパーティの話もしないといけなくなる。
「えっと、それは……」
僕は言い淀んだ。
「なんで黙ってるんだ、兄様。ただのアクセサリーじゃないだろ。これは……いや。」
しかし、僕の言葉を待たず、アランは自分の口元を押さえた。
「───いや、今はいいや。」
アランはペンダントから手を離すと、深く息を吐き、周囲を見渡した。
「この話は今じゃなくても良かったね。こんな崖の下で、急ぐ必要のない話をしても意味がない。後でゆっくり聞くから、全部教えてくれないかな、兄様……。
とりあえず、上に戻る方法を考えよう。テルノたちも心配しているはずだし。」
アランの言葉は、僕への追及を一時中断するという意思表示だった。
しかし、「全部教えてくれ」という彼の言葉は、確実な約束として僕の心に重くのしかかる。
───ただ、今はゲームの途中だ。そして、僕たちは崖の下にいる。
確かに、彼の言う通りだ。
まずは、レオン君とテルノの元へ戻らなければ。
「……うん、分かった。崖の上に戻る方法を考えよう」
黒く変色したペンダントが、服の下でひんやりと冷たい。
僕たちの知らないところで、このペンダントが僕たちの運命に絡みつき始めているような、不吉な予感がした。
69
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる