用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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(アラン視点)


───夜も更けた頃。 
話し合いを終えた俺たちは、ヴァルが作ってくれた夕食をご馳走になることになった。

小屋の中には、大鍋から漂う温かい湯気と、肉と野菜の煮込まれたいい香りが満ちる。
木の器によそわれたのは、懐かしいヴァル特性のシチューだった。

一口食べると、素朴だけれど深い味わいが体に染み渡り、張り詰めていた緊張が少しだけ解けていくようだった。

「……うまいな」

アーヴェントが一口食べて、意外そうに目を丸くした。 その反応を見て、俺はなんだか自分のことのように鼻が高くなった。

「だろ? ヴァルの作るシチューは絶品なんだ。俺も昔からこれが大好きだったんだよ」

俺はヴァルに向き直り、慣れ親しんだガゼル公国の言葉で伝えた。

「ヴァル、すごく美味いよ。久しぶりにヴァルの料理を食べられて、とても嬉しい。」

そう言うと、ヴァルは髭に覆われた口元を少しだけ緩め、嬉しそうに目を細めた。 言葉は通じなくても、兄様やアーヴェントが夢中で食べている姿を見て、彼が安堵しているのがわかった。

ゴロゴロとした野菜の甘みと、少しスパイシーな肉の旨み。
 ……ああ、この味だ。 
見知らぬ土地で孤独だった俺を、いつも温めてくれた味。

外は漆黒の闇と、荒涼とした大地が広がっている。 けれど、この小さな小屋の中だけは、不思議と温かかった。

───俺が誘拐されて逃げ出して、ヴァルガスの家に来た時に初めて食べたのも、このシチューだったな。

あの時は何もかもが怖くて、闇の中にいるようだったけれどこのシチューの温かさに助けられたっけ。

そんなことを懐かしむように思い出しながら、俺は1口ずつ噛み締めるようにシチューを食べた。

食事を終え、俺たちは今後の計画───お父様を告発し、ノア兄様を守るための作戦───を確認し合った後、旅の疲れもあり、早めに休むことになった。

兄様とアーヴェントには、奥のベッドを使ってもらうことにした。 

───そうして、二人の寝息が静かに聞こえ始めた頃。

俺はそっと毛布を抜け出し、扉を開けて外に出た。 冷たい夜風が頬を撫でる。 そこには予想通り、岩に腰掛けて月を見上げている大きな背中があった。

「……ヴァル」

俺が声をかけると、彼はゆっくりと振り返って優しく微笑み、隣を叩いて座るように促した。 
俺は彼の隣に腰を下ろし、彼を見あげる。
昔は彼の肩にも届かなかったのに、今では視線の高さがだいぶ近づいている。

「……大きくなったな、アラン」

ヴァルが、低くしゃがれた声で呟いた。

「うん。……あれから5年も経ったからね。」

「そうか……5年か。俺にとっては、永遠のように長い時間だった」

ヴァルは遠くを見るように目を細めた。 

それから俺たちは、ぽつりぽつりと空白の時間を埋めるように話し始めた。 
俺が国に帰ってどう過ごしていたか、兄様のこと、そしてここに来るまでの旅のこと。 

ヴァルは時折「そうか」「よくやったな」などと相槌を打ちながら、俺の話を楽しそうに聞いてくれた。

俺も、最初は笑いながら話していた。 ……けれど、ふと会話が途切れた時、ヴァルが震える声で言った。

「……本当に、夢じゃないんだな」

「え?」

見ると、ヴァルの目から、また大粒の涙が溢れ出していた。

「弟を奪われ、お前までいなくなって……俺はもう、何も守れない無力な男なんだと思っていた。この世に俺の居場所なんてないし、家族も、守るものも、何もない……ただ死ぬのを待つだけの毎日だったんだ。」

「ヴァル……」

「でも……お前が生きていてくれた。アラン、お前は……俺の生きる希望だったんだよ」

ヴァルはそう言うと、俺の方に向き直り、その大きな両腕で俺を強く抱きしめた。

「……っ!」

「生きていてくれて、ありがとう。また俺の前に現れてくれて……本当に、ありがとう……」

耳元で聞こえるヴァルの震えた声。
その震えが、体温が、直接俺に伝わってくる。 

ヴァルにつられて、俺の目頭も熱くなった。 俺も、彼の背中に腕を回し、しがみつくように抱き返す。

「俺の方こそ……ごめん。何も言わずにいなくなって。……会いたかったよ、ヴァル」

しばらくの間、俺たちは暗い森の中で、互いの存在を確かめ合うように抱き合っていた。 

そうしてしばらく互いの体温を感じ合った後、俺は鼻をすすりながら、言いにくい現実を口にした。

「……聞いて、ヴァル。俺たち……すぐに俺たちの国に帰らなくちゃならないんだ。お父様の悪事を止めるために……。」

せっかく会えたのに、また別れなきゃいけない。 

そう告げると、ヴァルは体を離し、悲しそうな顔で俺を見つめた。
 ……と、思った次の瞬間。

彼の瞳に、強い光が宿った。

「なら、俺も行く」

「……え?」

俺は間の抜けた声を出した。

「い、行くって……俺たちの国に?ヴァルはここの暮らしがあるだろうし……それに、ガゼル公国の言語しか喋れないんじゃ……。」

「そんなもの、もうどうでもいい」

ヴァルは即答した。

「俺はもう、何も失いたくないんだ。弟のこともあるが……何より、お前をまた手放して、後悔したくない。二度と、あんな孤独な日々に戻りたくないんだ」

彼を見ると、真剣な眼差しをしていて、そこには揺るぎない決意があった。 

彼はもう、俺を離すつもりはないらしい。 

「アラン。お前が心配なんだ。……側で、守らせてくれ」

ヴァルが再び、俺を抱きしめた───さっきよりも強く。


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