用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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68 (アラン視点)

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(アラン視点)


ベッドの上で固まっていたルカスは、信じられないものを見るような目でヴァルガスさんを見つめていたが、やがてその瞳に、逃げ場のない現実が色濃く落ちていったようだった。

「……あ、あはは。そうか……。僕は、生きて兄さんの前に……」

乾いた笑いを漏らしながら、ルカスはフラフラと立ち上がった。
足元は覚束ないのに、彼はまるで何かに追い立てられるように、宿の部屋の出口へと向かおうとする。

「待て、エリアン! まだそんな体でどこへ行く!」

ヴァルガスさんが堪らずその腕を掴んだ。

……しかしそれが、彼の均衡を壊す引き金だった。

「放せッ! 触るなと言ってるだろう!!」

ルカスが、突如激しく絶叫した。 
それまでの弱々しさが嘘のように、彼は狂ったように暴れ出した。自分を拘束しようとするヴァルガスさんの手を振り払い、力任せに周囲のものをなぎ倒す。

ガシャァァン!!

凄まじい音を立てて、サイドテーブルに置かれていた水差しが床で砕け散った。
破片が飛び散り、ルカスの裸足の足元を濡らすけれど、彼はそれすら気づかない様子で、獣のように声を荒らげる。

「やめろ! その手で僕に触れるな! 汚れる……僕に触れたら、兄さんまで汚れてしまう!」

「エリアン! 落ち着け!」

「僕は道具だ! 組織に、あいつらに、中までぐちゃぐちゃに作り変えられた……ただの便利な人殺しの道具なんだよ! 昔のエリアンなんて、もうどこにもいないんだ!!」

……俺は、その言葉の意味を理解して、血の気が引くのを感じた。

「アラン……なんて、なんて言ってるの?」

ノア兄様が震える声で俺に尋ねる。
僕は、喉にせり上がる塊を飲み込みながら、なんとか声を絞り出した。

「……『自分は道具だ』って……『汚れているから、触るな』って言ってる。……ヴァルガスさんにだけは……自分を失望させたくないんだ。きっと、今の自分の姿を彼にこれ以上、見られたくないんだ……!」


その時、ルカスの首に嵌められている銀色の首輪が、彼の絶叫に呼応するようにドクン、ドクンと不気味な緑色に点滅し始めた。

「……っ、あ、あががっ……!!」

ルカスが喉をかきむしり、苦悶に顔を歪める。首輪が彼の感情の昂ぶりを検知して、何か苦痛を彼に与えているようだった。

「エリアン!!」

ヴァルガスさんが何度もその名を呼び、彼を抱きとめようとするけれど、ルカスは「エリアン」と呼ばれるたびに、過去の自分とのギャップに苦しむようにさらに激しく拒絶する。

もう、誰の手もつけられない────俺がそう思った、その時だった。

「────ルカス、落ち着いて!!」

ヴァルガスさんを突き飛ばすような勢いで、ノア兄様がルカスの体に飛び込んだ。 

兄様は、床にちらばった破片で自身が傷つくのも厭わずにルカスの体を正面から力一杯抱きしめた。
ヴァルガスさんが呼んでいた過去の名前ではなく、今の彼を指すルカスという名で、そして僕たちの国の言葉で、強く、静かに彼に呼びかける。

「……ぁ……」

すると、あんなに狂乱していたルカスの体が、兄様の腕の中でだんだんと力を失っていく。首輪の点滅がゆっくりと消え、彼の瞳に、ぼんやりとした光が戻ってきた。

(ルカスが落ち着いた……さすがノア兄様。)

それからしばらく、部屋の中はしんと静まり返った。 
ノア兄様は落ち着けたルカスを再びベッドに座らせたけれど、さっきの混乱っぷりを見て、誰もが今は話を聞ける状態ではない、と察していた。

ルカスはシーツを指が白くなるほど強く握りしめ、顔を伏せている。
そして、彼はゆっくりと口を開いた。

「……悪かったね。ちょっと、取り乱しちゃったよ。……でも、もう大丈夫だ。何ともないよ。だから、これ以上僕に何も構わないで。」

彼は、いつも通りを演じようとしているようだった。
けれど、 大丈夫なんて、誰が見ても嘘だとわかる。それに口調も酷く弱々しい。こんなにも憔悴していると言うのに、彼は未だに頑なに心を閉ざそうとする。

「……何でもないわけないでしょ。……ルカス、本当のことを話して」

すると、ノア兄様が、彼の目の前に座り込み、その手をそっと握る。



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