用済みになった貴族の養子の子が本当の愛を知るまで

チョココロネ

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(ノア視点)


僕は、そう、ルカスの冷え切った手を両手で包み込むようにして握った。 
それに対してルカスはまだ拒絶するように視線をウロウロと彷徨わせていたけれど、僕は逃がさないというようにもっと力を込める。

「ルカスにも、事情があったならちゃんと、話して欲しいんだ。僕もそうだけど、ヴァルガスさんだって味方だよ。それに、ここにいるみんなも。」

僕の言葉に、みんなも顔を見合せて頷く。

ルカスは、そんな僕たちを見て、瞳を僅かに揺らした。
彼の固く閉ざされた心の扉が、ゆっくりと、今にも開きそうにな、そんな予感がした。
そうして、ルカスは、意を決したように唇を震わせた──────その瞬間。


ドオォオン!!!!

突然、凄まじい衝撃音が部屋の入り口から響き渡った。 宿の部屋の頑丈な扉が、まるで紙切れのように内側へ吹き飛んできた。

「なっ……!?」

反射的に全員が入り口へと視線を向ける。
そして、立ち込める埃と煙の中から現れたのは、威圧感のある巨躯を揺らす、一人の男だった。

(あの男……どこかで……。)

僕は、初めて見るはずの男にどこか既視感を覚える。
その男は、洗練された身なりをしているが、その眼光は飢えた獣のように鋭く冷徹だった。

ルカスは男が現れた途端、魂が抜けたように硬直したかと思えば、ガチガチと歯の根が合わないほどに震えだした。僕が握っていた彼の手から、一気に血の気が引いていくのが伝わってくる。

「……ははは! 私の『人形』から異常反応を検知したから見に来てみれば……なんとまあ、随分と賑やかな顔ぶれじゃないか」

男は僕たちを舐めまわすように、部屋の中をじろりと見回した。

「ふむ。アーヴェント家の小僧に、グランベル家の『本物』と『偽物』のご子息。それから伯爵家の息子に……そっちの野蛮な男は一体誰だ?」

ヴァルガスさんにスッと指を向ける男。 それに対して、言葉のわからないヴァルガスさんは敵意をむき出しにし、懐からあの家宝の短剣を取り出した。

それを見た男は、意外そうに目を見開く。

「……おや、もしかして、あの時の番犬くんか? ……なるほどな」

男はそう独り言ちて、顎に手を当てた。 今にもヴァルガスさんが飛びかからんとしている状況だというのに、全く動揺を見せない。

「随分と面白い面々だ。……とりあえず、大人しく私についてきてもらおうか」

男がパチンと指を鳴らした。 その音を合図に、背後から黒装束に身を包んだ手下たちが次々と雪崩れ込み、あっという間に僕たちは完全に包囲されてしまった。

「クソ……なんなんだ、こいつは……」 「絶対に、見つかっちゃいけない相手に見つかったことだけはわかるよ……」

アランとテルノが絶望的な声を漏らす。 

─────その時、突如、不意をつくようにレオン君が短剣を手に、男に向かって突進した。 
しかし、その鋭い動きよりも、男の指示の方が早かったようで。

「……動くな。こいつの喉を掻き切りたいか?」

「……っ……ぁ……」

気づいた時には、僕の背後にいた手下の一人が、僕の首元に冷たいナイフを押し当てていた。 
鋭い刃先が皮膚に食い込み、微かな痛みが走る。

「ノア!!」 「ノア兄様!!」

レオン君とアランが悲鳴のような声を上げ、レオン君は武器を構えたまま凍りついた。

「……あ、ああ……僕のせいだ……僕が、ノア君を呼んだから……僕が、兄さんに気づかれたから……!」

ルカスは頭を抱え、ベッドの上で丸くなってブツブツとうわ言のように呟き始めた。 

その目は虚空を見つめ、この世の終わりのような絶望に染まっていた。


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