僕だけの世界

羽矢 翼

文字の大きさ
1 / 4
世界ツアー

異変

しおりを挟む
 ニューヨークのタイムズスクエアを見下ろすスタジオで、ニュースキャスターの声が響いた。

「今、世界中で躍進しているボーイズグループ『SPIRIT』。K-POPではなく、珍しくJ-POP出身の彼らですが、女性ファンが圧倒的に多いK-POP勢に比べて、ワイルドな見た目の彼らには熱狂的な男性ファンも多くついています。そんなSPIRITは今回、初の世界ツアーを行うことになりました。彼らは良い意味で『コア』なファンが多く、チケットは即席完売になったようです。これからの躍進に大いに期待です」

 キャスターの言葉通り、世界ツアーの幕開けとなる東京ドームは、異様な熱気に包まれていた。
 ステージ裏から漏れ聞こえる地鳴りのような歓声。5人のメンバーは、広大なドームの客席を見渡す位置に立っていた。

「やっと……やっとここまで来たね!!」

 一番年下のソラネが、興奮を抑えきれずにその場ではしゃいだ。キラキラと輝く瞳で客席のペンライトの海を見つめている。

 リーダーのT-レイもまた、震える手でマイクを握りしめ、まさか自分たちが本当にこの場所に立てるとは思えなかった。
 レイはグループのリーダーであると同時に、彼らが身にまとう独特な衣装のデザイン、そして楽曲の作詞作曲までを手掛ける実質的なプロデューサーでもある。彼が寝る間も惜しんで作り上げた世界観が、今、5万人の観衆に受け入れられようとしているのだ。

「レイ、何泣きそうになってんだよ。まだ始まってないぜ」

 ラップ担当のSA-RAが、レイの肩を強めに叩いた。

「痛いな。泣いてないよ。……ただ、この景色を僕たちが作ったんだって思うとさ」
「またレイの『プロデューサーモード』が入ったな。ほら、円陣組むぞ!」

 そう声をかけたのは、メインボーカルのカイだ。ダンス担当のレンもニカッと笑ってレイの背中を支える。

「僕たちの音楽、世界にぶちかましてやろうぜ!」

 5人は固く手を重ね合い、ステージへと飛び出した。
 歌声、ダンス、そしてPがこだわった演出。すべてが完璧に噛み合い、東京ドーム公演は伝説的な大成功を収めたのだった。

 それから数日後。
 世界ツアーの準備期間の合間を縫って、レイはSA-RAと共にスーパーマーケットに来ていた。ツアー中の自炊用食材や日用品を買い込むためだ。

 カートを押しながら陳列棚を眺めていたPは、ふと天井を見上げて眉をひそめた。

「なんかこのスーパー、すごいな」
「ん? 何が?」

 豚肉のパックを手に取っていたSA-RAが不思議そうに振り返る。レイは眩しそうに目を細めて天井を指さした。

「いや、こんなに紫の照明をクラブみたいに発光させてて珍しいねって。野菜売り場なのにムーディーすぎない?」

 レイの言葉に、SA-RAはきょとんとした顔で天井を見上げ、それからPの顔をまじまじと見た。

「ん? なんのこと」
「え? だって紫の照明が、そこら中で点滅してるじゃん」
「いや? ないよ? 普通の蛍光灯じゃん」

 SA-RAの声は真剣だった。冗談を言っているようには見えない。
 レイはもう一度周囲を見渡した。視界の端で、紫色の光が激しく明滅している。まるでライブハウスのストロボのように。しかし、通り過ぎる他の客も、店員も、誰も気にしていない。

(自分にだけ、見えている……?)

 背筋に冷たいものが走った。連日の激務とプレッシャーのせいだろうか。しかし、光はあまりにもリアルで、レイの視界を侵食してくる。
 不安に耐え切れなくなったレイは、後日、マネージャーにも内緒で一人、心療内科を受診することにした。

 診察室の静けさが、ドームの歓声とは対照的に耳に痛かった。
 いくつかの検査と問診を終え、医師が重い口を開く。

「レイさん貴方統合失調症の初期症状です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...